愛というテーマについての著者の思索が展開されているエッセイと、9編の掌編小説がまとめられています。
著者は、「人間は常に孤独である」ということから、思索を開始します。愛とは、人が心のなかにいだいているこうした孤独を、はっきりと認識する体験です。しかし著者は、他者に愛されることによって自己のうちの孤独を埋めようとするエゴイズムがわれわれの心にしのび込みやすいことを指摘します。そして、他者に愛されるよりも他者を愛することによって、他者の孤独を所有しようとすることに、愛の意義を見いだそうとします。
さらに著者は、愛の終わりについても考察をおこなっています。スタンダールの「結晶作用」と対比的な意味をもつ「融晶作用」という概念を用いて、愛が崩壊していくプロセスに目を向ける著者は、それでも愛を無益なものと考えてはいません。ひとつの愛が忘却されたとしても、自己の孤独を見つめるとともに他者の孤独を所有しようとする「愛の試み」はつづくと著者は主張します。
愛というテーマについて哲学的な思索を展開しながらも、体系化への志向を排して、経験そのもののうちに沈潜することで理論的な認識を結晶化させようとする試みがなされており、フランス文学に造詣の深い著者らしいエッセイだと感じました。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
日本の小説・エッセイ
- 感想投稿日 : 2023年9月27日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2023年9月27日
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