シャトウ ルージュ (文春文庫 わ 1-25)

著者 :
  • 文藝春秋 (2004年11月10日発売)
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感想 : 15
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主人公の克彦はフランスのパリで、妻の月子を誘拐されてしまいます。驚いた月子の両親は彼のもとを訪れ、月子を取り返してほしいと訴えますが、じつは彼女の誘拐は克彦が仕組んだことでした。

克彦は、妻でありながら彼との肉体関係を忌避しつづけてきた月子を懲らしめるため、フランスで知り合った「Z」という男に彼女を誘拐して調教を施すことを依頼します。彼の依頼を受けたZは、月子を「シャトウルージュ」と呼ばれる洋館に幽閉し、数か月間にわたって何人もの男女の手で月子の身体に性の悦びを教え込みます。克彦は、Zたちが妻に淫らな行為をおこなっている様子をのぞき見ながら、激しい嫉妬と興奮に苛まれます。

そして月子への調教プログラムがすべて終わり、彼女は克彦のもとへ返されますが、調教によって身も心もすっかり作り変えられてしまった月子はまもなく彼のもとを去り、ふたたびシャトウルージュへともどっていきます。

『失楽園』や『愛ルケ』など、多くの性愛小説を執筆してきた著者の性愛観が、もっともストレートに提示されている作品ではないかと思います。もちろん、キリスト教の圧倒的な影響のもとで涜神としての性愛を発展させてきた西洋とは異なる、日本のエロティシズムを文学的に探究してきた過去の小説家や文学者たちとくらべるといささかスケールが小さいと感じますし、「アメリカの影」といったテーマへの広がりもなく主人公の卑小な西洋コンプレックスが表明されているにすぎないというのもその通りではあるのですが、性の悦びを知らない月子が西洋人の手で開発されていくプロセスが語られていくなかで、著者の性愛観における医学的・自然的な条件に文化的な条件が上書きされているところに、個人的には興味を惹かれました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本の小説・エッセイ
感想投稿日 : 2016年12月25日
読了日 : -
本棚登録日 : 2016年12月25日

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