芥川賞受賞作を含む短編3編を収録しています。
表題作である「蔭の棲みか」は、在日コリアンの集落で長年生活してきたソバンと呼ばれる老人を主人公にしたもの。「舞台役者の孤独」は、馬望という在日コリアンの青年と、彼の周囲の男たちや繭子と呼ばれる夫から逃げ出してきた女との交流をえがいた作品で、いずれも性と暴力の濃密なにおいの立ち込めるストーリーを、ハードボイルドな文体でつづっています。
「おっぱい」は、やはり在日コリアンの登場人物が重要な役割を演じていますが、同時にセックスレスの夫婦である祐司と由子の距離に焦点があてられており、他の2作とはすこしちがった読後感があります。
日本人と在日コリアン、北と南、健常者と障がい者、夫と妻のあいだに横たわる距離がクローズ・アップされており、テーマそのものはおもしろいと感じました。ただ、在日コリアン文学において「在日」それ自体が遠隔地ナショナリズムのような役割を演じてしまうようになってから久しく、そのへだたりへの反省的なまなざしが欠けていることに、やや古臭さを感じてしまいます。たとえば、梁石日の小説やその映画化作品の大衆的な需要はそうした条件のもとで可能になったのではないかと考えられますし、グ・スーヨンの自伝的小説である『ハードロマンチッカー』ではそのような条件がパロディ的に自己言及されているのですが、本作の登場人物たちは日本人から疎外されている「在日」という場所にあまりにもなじんでしまっているように思えます。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
日本の小説・エッセイ
- 感想投稿日 : 2019年8月2日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2019年8月2日
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