渡邊二郎著作集 8 ドイツ古典哲学Ⅱ (渡邊二郎著作集(全12巻))

著者 :
制作 : 高山守  千田義光  久保陽一  榊原哲也  森一郎 
  • 筑摩書房 (2011年5月16日発売)
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著者のシェリングやヘーゲルについての論文のほか、ヘーゲル左派やマルクス主義にかんする論文などが収録されています。

本巻において多くの分量を占めるのが、シェリングにかんする論考です。著者はハイデガーの研究者として知られていますが、「存在」の根源にまなざしを向けようとするハイデガーの思索に通じるものを、「神の内なる自然」へ向けてさかのぼるとともに、その力動的な働きによって世界が切り開かれていくありようを論じたシェリングの『自由論』などで語られる思想のうちに見いだそうとする試みがなされています。

また、ドイツ哲学における「無」や「ニヒリスムス」についての考察も含まれています。著者は、ヤコービによるフィヒテ批判において「ニヒリスムス」ということばが用いられていることに注目するとともに、フィヒテとヤコービの双方の考えを批判し、「無」の積極的な働きをみずからの思想の根幹に据えたヘーゲルの思想の意味について考察をおこないます。さらに、こうしたドイツ観念論における「無」をめぐる議論が、ハイデガーを中心とする現代の哲学においてもつ意義を明らかにしようとしています。

後期のシェリングや後期のハイデガーの思想には、ベーメなどの神秘主義思想に類する秘教的な性格があり、一部の哲学研究者を魅了しつつも、その難解さを敬遠する向きもあるのではないかと思いますが、著者はその思想の意義を明瞭なことばで語っており、個人的には興味深く読みました。ただ一方では、そうした著者のあまりにも明晰な整理によってとらえられることのない魅力が、これらの思想のうちに存していたのではないかという気がしないでもありません。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 哲学・思想
感想投稿日 : 2022年12月10日
読了日 : -
本棚登録日 : 2022年12月10日

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