かつて中国思想が専門の加治伸行が、「戦後最大の思想家」と称される丸山真男の儒教理解の浅薄さを批判したことがありました。本書も、在野の思想家であり東洋思想に造詣の深い著者が、やはり「戦後最大の思想家」と呼ばれることのある吉本隆明を批判するという内容なので、かなり期待して読んだのですが、少し期待していた内容とは違っていたようです。
丸山真男に代表される近代主義者に対して、吉本は「大衆の原像を思想に繰り込む」ことの必要性を主張していました。しかし、吉本のいう「大衆の原像」も、吉本隆明という思想家の夢想にすぎなかったということが、本書では明らかにされています。「王様は裸だ」というわけですが、サルトルや吉本のような、あらゆる問題について発言することを求められる「知識人」がすっかり過去のものになった今、そうした指摘をおこなうことに何か意味があるのだろうかと、疑問に感じました。
『共同幻想論』や『言語にとって美とは何か』の内容を、刊行当時の時代背景を解説しながら噛み砕いて説明しているところなど、多くのことを学ぶことができたのですが、本書の中心的な主張には、あまり興味を感じませんでした。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
哲学・思想
- 感想投稿日 : 2016年1月30日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2016年1月30日
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