日本語教室 (新潮新書 410)

著者 :
  • 新潮社 (2011年3月17日発売)
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日本語の事を考え続けた著者が、母校、上智大学で行った「日本語教室」の講義を再現したもの。

印象的なのは「母語」の話。

「母国語」ではなく「母語」
「母国語」は自分が生まれた国で使われている言葉だが、「母語」は母親や愛情をもって世話してくれる人々から聞いた言葉のこと。

日本で生まれたとしても「母語」は日本語ではなく、関西弁、東北弁という事になる。

そして、「母語」は「道具」ではなく「精神」そのもの。
この「母語」をベースに第二言語、第三言語を習得していく事になる。そして、その「母語」以内でしか別の言語は覚えられない。
つまり、外国語を覚えるためには「母語」がきっちり話せなくてはならない。

このあたり、子供への英語の早期教育を主張している人達に聞かせてあげたい。

ところで、本書のように「日本語」をテーマにした場合、「日本語の乱れがひどい」と嘆いたり、警鐘を鳴らす、という事になりがちだが、著者は「美しい日本語」などありえないとバッサリ。
方言が入っていようがどうしようが、ものを正確に表現する、自分の気持ちを正確に相手に伝えられる、相手の言うことがちゃんと分かる、そういう言葉を使っていく事の方が大切だ、と著者は言う。

読んだ本の感想を書くようになった理由が
「仕事に関するメールの文章があまりにもわかりにくかったために、翻って、自分の書いている文章が分かりやすいか心配になり、普段から、ある程度まとまった文章を書く練習をしておこう」
と考えたため。

それだけに、こういう事を言われると、この文章自体が自分の考えを正確に、分かりやすく表現できているか心配になる。

また「日本語礼賛」に陥っていない点もいい。
それどころか、完璧な国などない。どこかで必ず間違いをやらかす。その間違いに自分で気付いて、自分の力で必死に苦しみながら乗り越えていく国民には未来があるが、過ちを隠し続ける国民には未来はない、と言っている。

このように書くと、本書に対して、堅苦しい印象を受けるかもしれないが、講義の時の語りかける口調のままのため、読みやすい。
むしろ、ところどころに著者のユーモアも顔を出す。

著者の「座右の銘」は「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく」だったらしい。
本書も正にこのことを実践しているかのような内容だった。

ところで、先の「美しい日本語などありえない」という話も含めて、どこかの国の、選挙を経なければなれない職種の人々に聞かせてあげたい。
ある面、作家以上に言葉を駆使しなければいけない人達の言語能力、大丈夫だろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2012年11月4日
読了日 : 2012年11月4日
本棚登録日 : 2012年11月4日

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