思い出のとき修理します (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (2012年9月20日発売)
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本棚登録 : 6008
感想 : 603
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何年か前、小学校の同窓会に行ったときのこと。
久しぶりに会った幼なじみの男の子(というより、もうおじさんになってたけれど)が、
思い出し笑いしながら言いました。

「母親に、『まろんちゃんち行くけど、一緒に行く?』って言われて、
なにして遊ぼうかなぁって喜んでついてくんだけど、まろんちゃん、
『いらっしゃい』って言ったっきり、いつもず~っと本読んでるんだよなあ」って。

「うわあ、ごめんね!せっかく来てくれたのに退屈だったよね」と今更ながら謝ったら
「いや、いいよいいよ。本読んでるまろんちゃんをじーっと見てるのも楽しかったから」
なんて言ってくれて。

あらまあ! 時計を巻き戻して、あの頃に戻ることができたら
読みかけの本を置いて仲よく一緒に遊んで、ほのかな初恋が育ったりしたのかしら♪
などと、こっそり都合のいい想像をしてしまった私なので

『思い出のとき修理します』というタイトルと、
「もしも『過去』を『修理』できるとしたら?」という帯のコピーに
おお!時を遡って、悲しい思い出を修復するお手伝いをしてくれる
素晴らしい時計屋さんのお話にちがいない!と、思いっきり早合点してしまいました。

そんなファンタジックな設定ではなくて (ちょっとざんねん!)
シャッターが降りたお店ばかりの寂れた商店街に起こる不思議な事件の謎を
心やさしい時計屋さんが解いていく、ほのぼのとした物語。

不思議な事件のきっかけとなるのが、猫がくわえてきたオルゴールだったり
たった一度のデートのためにチクチク縫ったワンピースだったり
季節はずれの日傘と子ブタのぬいぐるみだったりして
なんだかそれだけで、なつかしく甘酸っぱい思いがこみ上げます。

ミステリなのか、ファンタジーなのか、恋の物語なのか、ちょっと曖昧で
「う~ん、どれかにもっと思いっきり浸りたい!」という気分にはなるけれど、
理容店の孫として、商店街で暮らすことに密かに罪悪感を抱く明里を
やさしく、温かく見守る時計屋さんが素敵なので、いいことにしよう♪
人間と神様の間を行ったり来たりしている、というか
まるで妖精パックのような、神出鬼没で屈託のない太一も、とても魅力的だし。

やっぱり過去は変えられないから、あの頃に戻って初恋をやり直すこともできないけれど
思い出を時間でやわらかくくるんで、今の気持ちで色を塗り替えて
明日の私に、「はい!」と手渡してあげたくなる、やさしい物語です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: た行の作家
感想投稿日 : 2013年2月14日
読了日 : 2013年2月13日
本棚登録日 : 2013年2月14日

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コメント 8件

nobo0803さんのコメント
2013/02/14

私も表紙を見て気になってる本です。で、まろんさんと同じように、悲しい過去を修復するファンタジックな物語と思ってましたよ。
ちょっと違うんですね・・・でもやっぱり読んでみたいです!!だって、表紙の時計屋さんが素敵な感じだから(*^-^*)

まろんさんのコメント
2013/02/15

noboさん☆

おお、早合点ナカマ゚.+:。(ノ^∇^)ノ゚.+:。ですね♪
noboさんもおんなじ感じ方をされていたと思うと、なんだかほっとします。

そうなんです、時計屋さん、表紙だけじゃなくて、物語の中でもとても素敵なんです♪
複雑な時計を修理しちゃうだけじゃなくて、お料理まで得意だったりして。
読み終えたら、ぜひ、神出鬼没の太一くんを
noboさんはどう捉えたか、教えてください(*'-')フフ♪

だいさんのコメント
2013/02/16

小学生の初恋は、ませていますね。
共に過ごす時間を共有できたことは、素適だと思います。

まろんさんのコメント
2013/02/16

だいさん☆

共に過ごす時間を共有できた、そんな風に言って下さると
幼なじみをほったらかしにして本に夢中になっていた罪悪感も
ちょっと薄れて救われた気がします。
小学生の頃の友達って、おじさんおばさんになっても
〇〇くん、〇〇ちゃん、で気取らないで会話できていいですね♪

円軌道の外さんのコメント
2013/02/18


いやぁ〜
スゴい胸がきゅい〜んとする
エピソードですね(笑)(*^o^*)

その彼が言った
「本読んでるまろんちゃんをじーっと見てるのも楽しかった」は
なかなか言えるセリフじゃないっスよ(笑)

大人やし
もうカッコ良すぎます(笑)



自分もまろんさんと同じく
本好きな子供やったけど、

ふたご座だけに
二重人格の毛があって(笑)

普段は友達と
野球したり相撲したり缶蹴りしたり
ワイルドな遊びに明け暮れてたけど、

みんなが帰った後や
友達が捕まらない時は
コッソリ図書館行ったり
コッソリ小説読んだり
コッソリ文通してるような
今考えたら
なんか、いけ好かないコッソリ派でした(笑)(^_^;)




この小説は本屋さんでチラ見したけど
良さげな雰囲気ですよね♪

自分は大の商店街フェチやし(笑)
まろんさんのあったまるこなレビュー読んで
余計に読んでみたくなりました(^O^)


近々GETしてきます!

まろんさんのコメント
2013/02/18

円軌道の外さん☆

ふふ♪ なんとそんなカッコイイ言葉をかけてくれた彼は
フレンチレストランの腕のいいシェフになっていて
きゃー、もし初恋がすくすくと育っていたら、
おいしいフレンチがおなかいっぱい食べられたのかしら!
と、食いしん坊らしい妄想まで膨らませてしまったのはヒミツです(笑)

男の子の世界では、特に小さいうちは、
元気に外で遊ぶのが王道!みたいなところがあって、
静かに本を読んだりするやつはいけすかない!
って思われちゃうのが、気の毒というかなんというか。。。
円軌道の外さんも子ども心に苦労したんですね~。

時々シャッターを開けて営業するお店がぽつぽつあるような
商店街の雰囲気がとてもよくて、ほのぼのしたお話ですよ♪

macamiさんのコメント
2013/02/21

この本、手元にあったので(読む予定だったので)
まろんさんのレビューを読むのを我慢していました。
やっと読んで(本)、やっと読めました(レビュー)!
太一の存在、軽いようでいい味だしてましたね。
いいかげんなようで、気も遣えたりして。
商店街の雰囲気、というより、時計屋さんとヘアーサロン由井の雰囲気かもしれませんが、
すごく惹かれます。
大人になってからのこんなあったかいご近所、
憧れます。(笑)

それにしてもまろんさんの同窓会でのエピソード、
その彼はよく覚えてますね。好きだったからかなあ。ふふ。

まろんさんのコメント
2013/02/22

macamiさん☆

おお!macamiさんとほぼ同時期に読めたなんて、うれしいです♪
あったかくて懐かしいあの商店街を、ふらっと覗いてみたくなってしまいますよね~。
私はドールハウスとか、こまこましたものが好きなので
時計屋さんが、小さな部品を並べて修理している雰囲気にもうっとりしてしまいました。

同窓会の彼は、好きだったから、とかじゃなくて
遊びに行ったのに1秒も一緒に遊ばないで家に帰ったのが
あまりにもショックだったんじゃないかと思います(笑)
そしてそのことを、ぜんぜん覚えていなかった私、まったくひどい子ですよねぇ。。。

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