小さい頃、人見知りだった私がしょんぼりしているといつも、
母は油にドーナツ生地をぽとんぽとんと落としては、こんがりと揚げてくれました。
「ほら、これ、何に見える?」と訊かれ、
「う~ん、ペンギン?」とか「ひこうき!」とか答えているうちに、
いつのまにか「しょんぼり」はどこかに飛んでいってしまっているのでした。
私にとっての「何に見える?ドーナツ」みたいに
誰にも、思い出としっかり手を繋いだ、忘れられない料理やお菓子がある。
そんなメニューを7つ並べた、ひとつひとつのタイトルを見るだけで
おなかが空いてしまいそうな短編集です。
「食べて、生きること」の大切さを、変わることなく訴え続けている小川糸さん。
今回も、『バーバのかき氷』・『親父のぶたばら飯』・『こーちゃんのおみそ汁』など
ほろりとさせながら、温かい余韻を残してくれるお話が素敵です。
でも、よく「ほっこりさせてくれる作家」と表現される小川さんだけれど
魅惑の香水には、必ずちょっとだけいやなニオイがブレンドされているように
作品の中にいつも、ほのかな毒やシニカルな視線が混ぜ込まれているからこそ
温かさが際立つのかも。
今回も、『あつあつを召し上がれ』と銘打ちながら、かき氷の話を冒頭に据え、
贅を尽くした料理や、素朴でも食材を吟味し、丁寧に作り上げた料理を幾つも並べたあと、
最後の物語では、ヒロインにインスタントのだしを使った料理を
「おいしい」と言わせてしまう。
なんとも小川さんらしい隠し味の効いた1冊でした。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
あ行の作家
- 感想投稿日 : 2013年3月26日
- 読了日 : 2013年3月25日
- 本棚登録日 : 2013年3月26日
みんなの感想をみる
コメント 4件
vilureefさんのコメント
2013/03/27
まろんさんのコメント
2013/03/28
nico314さんのコメント
2013/07/03
まろんさんのコメント
2013/07/05