あつあつを召し上がれ

著者 :
  • 新潮社 (2011年10月31日発売)
3.29
  • (66)
  • (314)
  • (521)
  • (122)
  • (12)
本棚登録 : 2793
感想 : 468
4

小さい頃、人見知りだった私がしょんぼりしているといつも、
母は油にドーナツ生地をぽとんぽとんと落としては、こんがりと揚げてくれました。
「ほら、これ、何に見える?」と訊かれ、
「う~ん、ペンギン?」とか「ひこうき!」とか答えているうちに、
いつのまにか「しょんぼり」はどこかに飛んでいってしまっているのでした。

私にとっての「何に見える?ドーナツ」みたいに
誰にも、思い出としっかり手を繋いだ、忘れられない料理やお菓子がある。
そんなメニューを7つ並べた、ひとつひとつのタイトルを見るだけで
おなかが空いてしまいそうな短編集です。

「食べて、生きること」の大切さを、変わることなく訴え続けている小川糸さん。
今回も、『バーバのかき氷』・『親父のぶたばら飯』・『こーちゃんのおみそ汁』など
ほろりとさせながら、温かい余韻を残してくれるお話が素敵です。

でも、よく「ほっこりさせてくれる作家」と表現される小川さんだけれど
魅惑の香水には、必ずちょっとだけいやなニオイがブレンドされているように
作品の中にいつも、ほのかな毒やシニカルな視線が混ぜ込まれているからこそ
温かさが際立つのかも。

今回も、『あつあつを召し上がれ』と銘打ちながら、かき氷の話を冒頭に据え、
贅を尽くした料理や、素朴でも食材を吟味し、丁寧に作り上げた料理を幾つも並べたあと、
最後の物語では、ヒロインにインスタントのだしを使った料理を
「おいしい」と言わせてしまう。
なんとも小川さんらしい隠し味の効いた1冊でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: あ行の作家
感想投稿日 : 2013年3月26日
読了日 : 2013年3月25日
本棚登録日 : 2013年3月26日

みんなの感想をみる

コメント 4件

vilureefさんのコメント
2013/03/27

いいお母様ですね~。
素敵な人柄が伝わってきます。
まろんさんの色んなレビューを読むと、まろんさんにも娘さんにもその優しさの遺伝子が脈々と受け継がれているんだなって思います。

『バーバのかき氷』・『親父のぶたばら飯』・『こーちゃんのおみそ汁』
タイトルだけで美味しそうですね!
是非読んでみたい一冊になりました。

まろんさんのコメント
2013/03/28

vilureefさん☆

母は誉めてもらうと調子に乗るタイプだったので
vilureefさんにそんなに誉めていただいて
今頃天国でダンスでも踊っているかもしれません♪
いつも思い遣りあふれるコメント、ほんとうにありがとうございます!

『親父のぶたばら飯』に出てくる中華料理屋さん、
お店はなんだか煤けた感じなのに、出てくるお料理がとてつもなく美味しそうなんです。
お読みになるときには、お腹をちゃんと満たしてからでないと、辛いかもしれません(笑)

nico314さんのコメント
2013/07/03

まろんさん、こんにちは!

>ほろりとさせながら、温かい余韻を残してくれるお話が素敵です。

本当にその通りです!!

>最後の物語では、ヒロインにインスタントのだしを使った料理を「おいしい」と言わせてしまう。

そうなんです。これ、すごくリアルだなと思いました。
きりたんぽを丁寧に作っている時は、思い出のためにという感じがして、生きている自分たちより優先させらているような。
で、最後のインスタントだし。
絶妙のバランスだな、と。
「お腹がすいてしまって我慢できないし、とにかくたべちゃお!おなかがすいていれば、なんだっておいしいよ」みたいな、生きるエネルギーを感じて、微笑ましく、それでいてほろ苦さが残り、とても現実的でした。

まろんさんのコメント
2013/07/05

nicoさん☆

うわあ、うれしいです!
こんなとりとめもないレビューから、伝えたかったことをしっかり受け止めてくださって。

そうなんですよね、きりたんぽは、作る過程のほうに意味が持たされてるというか
それはそれで大切なことではあるんだけど、作るために作っている、みたいなところがあって。
それが、最後の最後には、肩に力を入れずに、インスタントだしで作った料理を
これから生きていかねばならない人たちが、「これはこれで立派においしいじゃない」と、平らげる。
あのリアルさ、逞しさが、なんともいえない味わいですよね♪

偶然にも、冠婚葬祭ラッシュでバタバタしてる中、それでもやっぱり小川糸さんの新作
『リボン』と『つばさのおくりもの』を読み終えたところで
nicoさんがこのレビューにコメントをくださったことにも
なんだかご縁を感じてうれしくなってしまいました(*'-')フフ♪

ツイートする