結婚して間もないころ、通っていた歯医者さんが、あまりに人手不足だったのか
「受付のアルバイトをしませんか?」とスカウトしてくれたことがありました。
憧れの、ピンク色のナース服♪
あれは、七難隠すどころか百難くらい隠してくれる魔法のアイテムですね。
常連患者さんからの電話を取ったら、いきなり「付き合ってる人いるんですか」と訊かれたり
(「あの・・・結婚してるんですけど」と答えたのを聞いて、
患者さんの歯を削っていた先生がぷぷっと笑ってしまい、
治療中の歯、危機一髪でした)
診察券と一緒に手紙やプレゼントを渡されたり、生涯で一番モテた半年間でした。
私なんかでもそんな状態だったのですから、
どうせバイトするなら可愛い制服でちやほやされたい♪
という女の子には、超オススメのアルバイトです。
。。。と、こんな私のオススメでは歯医者の受付のバイト人口が増えるはずもないけれど
この本に出てくるH大の学生部奨学係の女性職員、悠木さんが薦めてくれるバイトは
絶対に引き受けたほうがいい。
たとえそれが、亡くなったお婆さんの手を握ってお寺でひと晩過ごすとか
豪華な食事を、作った人にじいっと見つめられながら食べた後、頬ずりされるとか
幽霊と和やかに会話しながらガーデニングにいそしむとかいう、摩訶不思議なものでも。
「あなたは行くべきよ。断らないでね」と悠木さんが断固として押し付けるバイトは
自分でも意識していない、その人が今いちばん必要としているものを
最後に必ず与えてくれるのです。
5件のバイトのうち、悠木さんが唯一「行くべきじゃないわ」と言った
「アタエル」というバイトは、肌が粟立つほど怖かったけれど
その後に続く「タベル」と「メグル」の温かさに救われます。
学生に戻って、H大学生部の古びた廊下を辿り
奨学係窓口のガラスをコンコンとノックして
静かに振り向く悠木さんをひと目見てみたい! と願わずにいられない物語です。
- 感想投稿日 : 2013年4月5日
- 読了日 : 2013年4月2日
- 本棚登録日 : 2013年4月5日
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