桃 (中公文庫 く 11-5)

著者 :
  • 中央公論新社 (2005年3月1日発売)
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本棚登録 : 156
感想 : 20

桃に纏わる官能的な八つの短編。
久世さんは二.二六事件や血盟団事件など、好みのモチーフを描いてくれるから嬉しいのだけど、なにぶんやり過ぎてしまう。ここで止めておけば品がいいのに、こってりと盛り付けるから、文学を通り越して演歌や昭和歌謡になる。それもまた魅力でもあるのだけれど。
濃厚な味付けでちょっと胃もたれ気味。
とはいえ「むらさきの」と「尼港(ニコライエフスク)の桃」それから、〆の「桃 お葉の匂い」は素晴らしい。この三編だけでも充分価値ある短編集。

「桃色」ちょっと嫌悪感。女性に対する妄想部分で、どうしても相入れないところがあるのだなー。でも、久世さん、これが好きなんだね。この後にも、同じようなシチュエーションが何度も出てくるから。

「むらさきの」は上村一夫的な、不良少女がイカしてる。この作品こそ、久世さんらしい、俗っぽさと聖性の危ういバランスが光っている。

「尼港(ニコライエフスク)の桃」は謎解きの楽しみもあり、物語の楽しさをたっぷり堪能。最後の「桃」は久世さん思い入れの女の名前、「お葉」が登場する怪談。怖いというより、可愛らしく、物哀しい物語。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 黒髪
感想投稿日 : 2015年4月6日
読了日 : 2015年4月6日
本棚登録日 : 2015年4月6日

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