桃に纏わる官能的な八つの短編。
久世さんは二.二六事件や血盟団事件など、好みのモチーフを描いてくれるから嬉しいのだけど、なにぶんやり過ぎてしまう。ここで止めておけば品がいいのに、こってりと盛り付けるから、文学を通り越して演歌や昭和歌謡になる。それもまた魅力でもあるのだけれど。
濃厚な味付けでちょっと胃もたれ気味。
とはいえ「むらさきの」と「尼港(ニコライエフスク)の桃」それから、〆の「桃 お葉の匂い」は素晴らしい。この三編だけでも充分価値ある短編集。
「桃色」ちょっと嫌悪感。女性に対する妄想部分で、どうしても相入れないところがあるのだなー。でも、久世さん、これが好きなんだね。この後にも、同じようなシチュエーションが何度も出てくるから。
「むらさきの」は上村一夫的な、不良少女がイカしてる。この作品こそ、久世さんらしい、俗っぽさと聖性の危ういバランスが光っている。
「尼港(ニコライエフスク)の桃」は謎解きの楽しみもあり、物語の楽しさをたっぷり堪能。最後の「桃」は久世さん思い入れの女の名前、「お葉」が登場する怪談。怖いというより、可愛らしく、物哀しい物語。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
黒髪
- 感想投稿日 : 2015年4月6日
- 読了日 : 2015年4月6日
- 本棚登録日 : 2015年4月6日
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