テーマはそのものズバリの「怪物(團)」。そもそも怪物の別称「異形」を冠するアンソロジーシリーズだけに、我が意を得たりといったパワフルな物語が揃っている。
オープニングの飛鳥部勝則「洞窟」続く、黒史朗「緑の鳥は終わりを見つめ」からして、いきなりフルスロットル。怪異譚としての構成にも優れた「洞窟」の恐ろしさ(鮮烈なオチ!)と、「緑の〜」の混沌をそれぞれ堪能し、前半は上田早夕里「夢みる葦笛」にトドメを刺す。不条理SFとも云える世界観のなか物語は静かに進み、やがて怪物の福音とともに淘汰が始まる。それに抗う主人公の矜持が作者の思いと重なるようだった。
中盤、倉阪鬼一郎「牛男」は、後半の仕掛けも見事な一篇。朝宮運河「父子像」の不穏で悲しい物語にもかなり心が引きずられる。そして入江敦彦「麗人宴」はもちろん「テ・鉄輪」の一篇。どこまでも心地好い京言葉に翻弄されつつ繰り広げられる物語。この鉄輪シリーズの醍醐味は「静と動」。馥郁とした京都風情と阿鼻叫喚な怪異のコントラストが兎に角、クセになる。異形を通じて長く続いて欲しいシリーズである。
牧野修「沈む子供」に始まる後半は怒濤。異形初登場という飴村行「ゲバルトX」のワケ判らんハチャメチャさ、平山夢明「ウは鵜飼いのウ」のスプラッターでコミカルな味わい。これぞ怪物!といった傑作。…しかし「ウは鵜飼いのウ」て…(笑)
後半のキモは矢張り、真藤順丈「ボルヘスハウス909」だろう。これまた飴村、平山と同じく奇天烈なパワーで背負い投げされたような一篇なのだが、そうしたキッチュなエクステリアを引っ剥がすと、実は熱い青春譚なのでは?と思える読後感。いやしかし、どんな物語でもペロリと平らげてしまう「異形コレクション」の旺盛な食欲にいつもながら平伏してしまう…。
- 感想投稿日 : 2010年12月20日
- 読了日 : 2010年12月20日
- 本棚登録日 : 2010年12月2日
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