ウェルギリウス『アエネ-イス』: 神話が語るヨ-ロッパ世界の原点 (書物誕生-あたらしい古典入門)

著者 :
  • 岩波書店 (2009年2月18日発売)
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古代ローマ屈指の詩人ウェルギリウスと彼の代表作となる大叙事詩「アエネーイス」をひもといてくれる本です。

『アエネーイス』は、そのラテン語タイトルを訳すると、「アエネーアスの物語」。中世の巨匠ダンテは、詩人ウェルギリウスを深く尊敬していたようです。『神曲』の中でも、主人公ダンテの遍歴を教え導く重要な登場人物となっていますし、ダンテが幽玄界に降りていく設定や様々な描写をみてみても、間違いなく『アエネーイス』にインスパイアされたものと感じます。

プブリウス・ウェルギリウス・マロ(BC70年~19年:英語名ヴァージル)は、古代ローマ共和制末期、初代皇帝アウグストゥス時代の巨匠です。争いや殺戮が繰り返され、ひどく混乱していた激動の時代背景からでしょう……『アエネーイス』では、人々の平和や共生への希求が滲み出ています。はてしない人間の戦争そのものではなく、破壊や争いのその先にある平和の理想や民族・人種を超えた共生のための秩序を創造したい、というウェルギリウスの切なる想いが物語を通してひしひしと伝わってきます。
終わりのない覇権争奪、金や人や労働力や資源の飽くなき搾取のために、いつまでも戦争や内戦をやめようとしない現代社会に生きる私たちにも鋭く問われているものではないかな……と思えてなりません。

2002年、ノルウェーの愛読家団体がおこなった、世界54か国の著名作家100人を選ぶ「史上トップ100のフィクション物語」(イギリス・ガーディアン紙)では、『アエネーイス』は、トップ100選入りの作品となったそうです。
そこでは、ホメロスの『イリアス』、『オデュッセイア』、ギリシャ三大悲劇詩人ソポクレスの『オイディプス』、そして、エウリピデス『メディア』と並んだとのこと。ちなみに日本の作品では、『源氏物語』がエントリーしたようです。カッコいい!

『アエネーイス』は、西洋文学界では非常に著名な古典文学で、つくづく思うのは、世界に名だたる文学作品というのは、時代の病を背負いながら、はるかな時を軽々とこえて読み継がれ、人々の心にいつまでも残り続けますね。とりわけ古典的作品は、何度も読み返したくなる奥深さがあるように思います。

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感想投稿日 : 2017年1月30日
本棚登録日 : 2017年1月26日

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