『時代の異端者たち』とは、なんとスリリングな表題なんだろ! そうかあ~と新たな視点にうなりながら、痛烈な皮肉に笑う。
『時代の抵抗者たち』の続編で、切れ味するどいジャーナリストの青木理さんと対談する各界の9名。これまた臆せず、ひるまず、すごいなぁ!
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2018年まで沖縄県知事をつとめた故「翁長雄志さん」を筆頭に、歌手・俳優の「美輪明宏さん」、弁護士・元判事の「木谷明さん」、ライターの「武田砂鉄さん」、看護師の「白川優子さん」、政治家の「河野洋平さん」、ジャーナリストの「北丸雄二さん」、防衛ジャーナリストの「半田滋さん」、そして大学院教授・元総務省官僚の「平嶋彰英さん」。
のっけから頭の下がる沖縄県知事の翁長氏。その粉骨砕身の活動に驚き、日本に駐留する米軍基地の7割以上の負担を強いられている沖縄の惨状にため息がもれる。県民投票などの地元の強い反対を一顧だにせず、あらたに建設をすすめている米軍の辺野古基地は、さらに県民を苦しめ続けて泥沼化している。先の大戦で地上戦となった沖縄では、12万人以上の県民が亡くなっている。報道によれば、いまだに彼らの遺骨(80年近くたつ今でも遺骨の収集が続いている)が埋まっている南部の土砂を、この基地の埋め立てに使うという計画に唖然とする。建設地周辺の多様で希少な生き物やサンゴ礁を破壊していて、知れば知るほど不条理だ。
また北丸雄二さんの語るLGBTQ問題はわかりやすい。80年代、アメリカで蔓延したエイズで不当な差別をうけて死んでいったゲイの人々が、「公的な領域」へと踏み出し、さらに90年代にはアメリカ各州で同性婚やパートナーシップを求める裁判が起こった。それから30年を経た日本でも、LGBTQへの意識の高まりがおこっている。
ただ北丸さんの指摘は厳しく鋭い。たとえば日本の映画を見ると、問題意識が萌しているのはわかるものの、あくまでも私的な領域に矮小化され、まわりの善意による回収(収束)で終わってしまっているという。たしかに諸外国ではすでに私的な領域を超え、公的なそれへと広がり、さらにグローバル化している。
それこそパートナーのケガや病気の際の入院手続や保証人は? 末期のケアや立ち合いや様々な手続? 保険は? 相続? 賃貸借契約は? 住宅ローン? それらの優遇税制は? 北丸さんの現実的な問いに直面してみると、確かに私的な領域の善意だけではどうにもならず、これまであたりまえだと思っていたことが決してそうではなく、それゆえにただ静観するだけではすまないことに気づかされる。そしてこの問題の「根本」は、差別やジェンダーや選択的夫婦別姓の議論にも絡んできそうだ。
さて国境なき医師団に参加している看護師白川優子さん。その語り口は、とても優しく素朴で切ない。日本に帰国して、開かれる花火大会にどうしても耐えられず、実家へ逃れたという。花火の大音響は戦地の爆撃や爆発音を想起させるからだ。そんな生きることさえままならない世界と、平和な花火大会のギャップに打ちのめされる。それも遠い火星のできごとではない。アジアのミャンマーであり、香港であり、ウイグルであり、故中村哲さんがあれほど心血をそそいだアフガニスタンだったりする。
異端とは「その時代の大多数の人々から、正当と認められているものから外れているか、それに反対する立場であること」(大辞林)。
ではその大多数の判断はつねに正しく妥当なのだろうか? はたして大多数ではない人々の判断に理はないのか? これまであたりまえだと信じて疑ってもみなかったことは、ほんとうに正しいのか? これを読みながら、そんなことをつらつら考えさせられた。
青木理さんのリードや合の手は絶妙で、解説も端的でわかりやすい。対談の分量はちょうどよくて読みやすいので、それぞれの分野で気になる人はぜひ手に取ってほしいな♪(2021.9.18)。
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「……求道がないところに異端がないのは当然かもしれないが、精神の働きのないところにも異端は育ちえないという事実を、私たちはあまりにもなおざりにしてきたのではなかったか」(須賀敦子『ユルスナールの靴』)
- 感想投稿日 : 2021年9月18日
- 本棚登録日 : 2021年9月4日
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