日本の思想 (岩波新書 青版 434)

著者 :
  • 岩波書店 (1961年11月20日発売)
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“右にのべたような状況、すなわち一方で、「限界」の意識を知らぬ制度の物神化と、他方で規範意識にまで自己を高めぬ「自然状態」(実感)への密着は、日本の近代化が進行するにしたがって官僚的思考様式と庶民(市民と区別された意味での)的もしくはローファー的(有島武郎の用語による)思考様式とのほとんど架橋しえない対立としてあらわれ、それが「組織と人間」の日本的なパターンをかたちづくっている。(p.52)”

 言わずと知れた、岩波新書を代表する名著である。書名の通り、日本の思想の特質とは何かについて述べており、現在巷間に流布している「日本論」の出典の一つといって良いだろう。2、3年前に夏の古本市で手に入れてからずっと積読していたのだが、今回漸く読み終えられた。

1 日本の思想
 本書の中心となる小論である。理解できているとは思わないが、概略だけまとめておく。(以下、(?)を付けた箇所は僕の解釈なので、誤っているor言い過ぎている可能性大。)
 まず丸山は、日本的特質は、思想の軸を持たないがゆえに終ぞ内部に連関を持ちえなかった、思想の無秩序な雑居性にあると述べる。“…それらがみな雑然と同居し、相互の論理的な関係と占めるべき位置とが一向判然としていない…(p.8)” 西洋文化ではキリスト教が思想の軸としての役割を果たしていたため、例えばニーチェによる道徳の欺瞞性の指摘がヨーロッパ的伝統に対する強烈なアンチテーゼとして機能した。一方で日本では、仏教にせよ神道にせよ、宗教が思想上の軸として作用するような伝統を形成しなかったため、新しく外からやってきた思想は「伝統」との対決を経ず、なし崩し的に受容される。再びニーチェの思想を例にとると、文脈が大きく異なるにも拘わらず、日本人の生活実感としての無常観の一類型として分かったことにされてしまう(ことがよくある)。“いろいろな思想が、ただ精神の内面における空間的配置をかえるだけでいわば無時間的に併存する傾向をもつことによって、却ってそれらは歴史的な構造性を失ってしまう。(p.11)” 丸山はこのような特質が生まれた原因までは明言していないが、日本の歴史的な後進性・辺境性は一つの要素だろう(?)。つまり日本が、古代から中世においては中国文化を、近代以降においては西洋文化を、と、外からやってくる文化を受容する立場であり続ける立場であったことに由来するのではないだろうか。このようにして外来思想を尊び貪欲に取り入れる一方、その反動・自己防衛として(?)イデオロギー一般を拒否し、直接対象に参入しようとするもう一つの傾向も古くから根強い。その典型が、漢意(からごころ)や仏意(ほとけごころ)を斥け、儒仏以前の「固有信仰」を復元しようとした国学の本居宣長である。明治維新を機に国家として自らを画することになった日本は、上(=外)から注入される官僚的制度と、下から立ち昇る「村」共同体的同化思想が混合することによって、超近代と前近代が歪に同居する事態に陥ったというのが日本社会の問題点である。“…合理的な機構化にも徹しえず、さりとて、「人情自然」にだけも依拠できない日本帝国はいわば、不断の崩壊感覚に悩まねばならなかった。(p.49)”
 外山滋比古は“第一次的現実にもとづく思考、知的活動に注目する必要がある(『思考の整理学』p.195)”と述べたが、実は日本ではそれが二重に阻まれていたのである。一つは完成品を有難がり、手ずから思想を作り上げることを相対的に下に見る傾向によって、もう一つは生活実感を抽象化し思想にまで昇華させることを忌避する傾向によって。

2 近代日本の思想と文学

3 思想のあり方について
 社会の2類型として「タコ壺」社会と「ササラ」社会という対比を導入し、日本社会は、根底に共通した基盤を持たない「ササラ」社会であると述べる。

4 「である」ことと「する」こと
 僕が丸山真男を知ったのは高校の国語の教科書だったが、その時に載っていたのがこの文章。或るものの価値は、そのもの自体であることから先天的に生じるとするのが「である」論理で、現実的な機能や効能から生じるのが「する」論理である。文化や学問の分野では「である」論理が、政治(民主主義)の分野では「する」論理が適用されるべきであるが、実際にはそれらが倒錯している点を丸山は問題視する。“…「『する』こと」の価値に基づく不断の検証がもっとも必要なところでは、それが著しく欠けているのに、他方さほど切実な必要のない面、あるいは世界的に「する」価値のとめどない侵入が反省されようとしているような部面では、かえって効率と能率原理がおどろくべき速度と規模で進展している…(p.176)”

 特に1,2が難解で、何度か読み直して丸山真男が何を言っているかがやっと分かってきたところであるから、実際にこの本で為された議論が現代社会に対してどの程度当てはまるかということはこれから吟味していかなければならない(このレビューも、大雑把な展開をまとめるだけのものになってしまった)。少なくとも、部分部分として見ると肯けるところが多かったように思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 3 社会科学
感想投稿日 : 2022年4月21日
読了日 : 2022年4月19日
本棚登録日 : 2019年9月25日

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