二月病 (Holly NOVELS)

著者 :
  • スコラマガジン(蒼竜社) (2012年2月18日発売)
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本棚登録 : 177
感想 : 12
4

初読みの作家さんです。
読後に感じたのはこの作品は良かったとか、感動したとか、そんな単純な感情じゃなかった。切々と綴られる感情の揺らぎに、その言葉の壮絶な美しさに、ただただ圧倒されて心が震えたとしか言いようがない。
ただ多くのレビュで見かけた意見に同感で、確かにサスペンスのリアリティを追求するなら、ツッコミどころは満載かもしれない。でも大事なのは、作家さんが描きたかったのは、そこじゃなかったんだとも思う。
愛する誰かの命をつなぐために、だた花を届けるみたいな気安さで、その実自分が壊れてしまいそうな必死さで、ボルトを届けるという極限状態を作りたかったのだと私は解釈しました。
ずっと親友だと思っていた蒼司から、突然想いを告げられて青天の霹靂だった千夏の無自覚な鈍感さや残酷さ。やさしさという名を借りて恋心を捨てさせる無神経さ。ていよく水に流して、それでもお前が大好きだよと縛り付けてしまう狡さ。ただ自分は何も知らなかっただけなのだと、自分の気持ちすらわかっていなかったのだと、蒼司を奪われて初めて気付いた時の絶望。蒼司は決して失くしてはいけない自分の半分なのだと自覚した時の後悔。
蒼司に向かって溢れ出すような感情の発露。それは泣きたいくらい幸せで悲しい。
ふたりのお遍路のエピソードがすごく良くて、特に御朱印帳の隙間にこっそり綴られた蒼司のささやかな日記のくだりはたまらず涙がこぼれた。それに返した千夏のつたないラブレター。
読んでいて苦しかった。不幸なのか幸せなのかわからなかった。でもやっぱり少し幸せで嬉しかった。
ふと我に帰って、事件の不整合生に興をそがれてしまう人もいるかもしれないけれど、私はすごく好きだった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 同級生・幼馴染
感想投稿日 : 2014年1月3日
読了日 : 2014年1月3日
本棚登録日 : 2014年1月3日

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