怪人 江戸川乱歩のコレクション (とんぼの本)

  • 新潮社 (2017年12月26日発売)
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感想 : 4
5

相変わらず図書館で本を読むニート生活を繰り広げているのだが、新刊の棚に面白い本があったのでさっそく手に取って読んでみることにした。プロニートは新刊チェックも怠らないのである。

探偵小説、近代ミステリーの祖とも呼ばれる江戸川乱歩、終の住処となった池袋の屋敷に保管されているコレクションをはじめとして、アルバムや生育歴を辿る「江戸川乱歩」という作家が「何者なのか」を詳らかにさせる本書。
著者は孫にあたる平井憲太郎氏他、実際に旧蔵資料の整理・研究を行った落合教幸氏他3名が務める。

中でも驚かされたのが、江戸川乱歩が整理癖があったというところ。あまり自伝やこういった評伝(というのだろうか)は読んだことがなかったので、作品のイメージとは異なっている印象を受けたが、よくよく考えてみればあんなトリック思いつくくらいだから細かくまとめることには長けていたとしても頷ける。
もちろんそういった側面は家族のアルバムにもいかんせん発揮されており、思い出をまとめる、という目的以外にも、明治から昭和までの資料として役立ちそうなほど丹念に整理されており、後から他者が見てもわかりやすい。資料や著書を整理していた蔵の片付けかたも写真を観ると気持ちの良いものがある。本書にて何度か追求されていた「自身が何者であるか」という問いへの探求であることは明らかであるのは納得した。

現実的で実用性を求める面と、幻想と怪奇を追求している面の二面性があることも伺えて、なおのこと江戸川乱歩という作家の奥深さに感嘆する次第である。

現在は立教大学にて保管されており、建物自体も保存されており週2で一部公開されているようだから昭和レトロが好きな人も、もちろん江戸川乱歩を敬愛している人も訪れることができるようになっている。行ってみたい。
それにしても私物から洋服の好みまで明らかにされてしまうのだから、有名税というのは高いものだ。もちろん遺族の方同伴であり、乱歩のことだから狂気的なもっとヤバそうな資料もありそうではあるが……死んでしまえば何も隠せないのは塩辛い。

それにしても乱歩は中学時代に美少年に恋をしてたというエピソードを始めて知ったものだから、驚いたものの、だからこそ同性愛的な表現が多かったのだなあと理解する。孤島の鬼なんてまさにそうだし。江戸川乱歩という作家を知るためにはいい入り口になるのではないだろうか。
写真も多いので軽く読めるうえに、生育歴や影響を受けた作家など図解も多かったので、良くある自叙伝のような文字ばかりを読めないときでも楽しめる。
それから影響を受けた作家にエドガー・アラン・ポーはもちろんのこと、他にも幼少期に親しんだ黒岩涙香や共に励んだ横溝正史を始めとした作家陣の名前がまとめられているので、他の作品を読んで見たい人にもいい手掛かりになるはずである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ・新書・専門書
感想投稿日 : 2018年3月10日
読了日 : 2018年3月9日
本棚登録日 : 2018年3月9日

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