贈与論 (ちくま学芸文庫 モ 11-1)

  • 筑摩書房 (2009年2月10日発売)
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ほぼ世界の全域にわたる地域に関する資料を渉猟し、古代の法に関する文献を蒐集することによって、贈与、受領、返礼を義務とする文化が、太古から人類のあいだに、しかも地域を横断する仕方で息づいていることを、比較文化的に浮かび上がらせる文化人類学の古典的研究であるが、そのアクチュアリティは、発表から85年以上を経た今も色褪せない。本書の議論において何よりも重要なのは、人類が太古から、場所によっては「ポトラッチ」と呼ばれる蕩尽の祝祭に極まる歓待と贈与の文化を発展させてきたことであり、またそこに生まれる鷹揚な交換を可能にする関係こそが、文化そのものを育んできたという洞察であろう。それとともに、英語のinterestという語で表わされる私的利害の追求が、簿記の行なわれる比較的新しい社会の歴史的産物であることも明らかになる。むろん、蕩尽の祝祭には呪術的な供犠が伴なうこともあるし、モース自身が認めるように、それが引き起こす興奮は、戦争とも隣り合わせのところに人を拉するものでもある。しかし、人間は贈与を通じて他の人々との協働関係を築いてきた。そのことの底流をなすモラルを見逃すべきではないとモースは言う。「感情には理性を、こうした突然の狂態に対しては平和への意志を対置させることによって、諸民族は戦争、孤立、停滞を協同関係、贈与、交易に変換させることができたのだ」。このことを可能にするモラルの所在を、いまは見失われつつあるのかもしれない人間の、あるいはその主体性の根源史のうちに探り当て、モースも述べているようにその地点から、「政治」と呼ばれるものを「ポリス」の手前で捉え返すことが、今あらためて求められていよう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文化人類学
感想投稿日 : 2011年11月8日
読了日 : 2011年11月8日
本棚登録日 : 2011年11月8日

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