真景累ケ淵 (岩波文庫 緑 3-2)

著者 :
  • 岩波書店 (2007年3月16日発売)
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本棚登録 : 213
感想 : 27
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『牡丹灯籠』と一緒に買って長らく積んでいた。現代怪談ブームの基礎的なところを求めてようやく解禁。

怖いものはなんでも「神経」のせい、ということに昨今ではなっている……という枕から「幽霊」を定義して始めるお話。開け始めた科学の眼を、それ以前との境界にさ迷わせる心細さを感じさせながら、それでもやっぱり幽霊は「よくある話」であるという。怪談という、人間が恐怖を見つめるための機構の意義が語られているのかも。
お話はストレートな怪談というより、その「幽霊」を生む、悪人にまつわる因果噺という趣。因果とくれば扱い慣れたものでもあって、話の広がり方と人の悪性の跳梁に、町民文化のお話だなあ……とある意味落ち着くものを感じる。
しかしここぞというところで話の枕のリフレインが来て、怪奇描写に言い訳がましさを感じてしまうのが難点。本編中では理屈抜きで恐怖と怪奇を楽しみたかったかも。そうするとやはり、一番活き活きとして興が乗るのは人の悪性を描く場面だったと思う。それだけに、予想のできてしまうまとめにはむしろ裏切られてみたかった。畜生以下ってあなた、散々殺しておきながらインセストタブーくらいで今さら何を……。
勧善懲悪、仇討、子どもの罪のなさ。悪人の因果を、伝統的で無邪気な善性が語るからこそだろうか。悪性がんばれ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 落語
感想投稿日 : 2021年4月18日
読了日 : 2021年3月20日
本棚登録日 : 2021年4月18日

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