尾崎翠集成 (下) (ちくま文庫 お 37-2)

著者 :
制作 : 中野翠 
  • 筑摩書房 (2002年12月10日発売)
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本棚登録 : 251
感想 : 20
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上巻からこちら、食べる描写、食べるための準備をする描写に何か隠微な美しさがある気がする。買い物だったり、台所の景色だったり。「第七官界彷徨」の印象を引きずってそう見えるのか(三五郎とお隣さんのは、町子にとって二重の失恋だったと思ってる)、あるいは本当にそうなのか。霞を吸っていのちをつなげたら、と思うのも本当でありつつ、そうはいかない実生活の生きる行為を尊んでいた人なのかもしれない。そんなわけで「新秋名果」の爽やかさ、瑞々しさがとても好き。
ほの甘い哀しみの香る「悲しみの頃」、より澄明で純度の高い「悲しみを求める心」も良かった。そして追憶の初恋の物語「花束」。乙女心のときめきに、追憶の切ない甘さと結びの美しさがぴたりとはまってたまらない。少女小説「空気草履」「露の珠」「頸飾をたずねて」のひたむきで幻想性豊かな味わいも素敵。
一番の目玉と目していた「琉璃玉の耳輪」はバリバリのエンターテインメント性が光る。女性陣のエネルギッシュなことおびただしく、上流は伯爵家から下流はアヘンの燻る貧民窟まで、女性探偵を主軸に自由な跳梁で魅せてくれる。家族もと通りひとつになって幸せに暮らしました、なんてなるわけないのも道理だった。姉二人がたくましい女傑ぶりで自ら幸せになることを願ってやまない。津原泰水版も読まねば。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年2月6日
読了日 : 2021年1月24日
本棚登録日 : 2021年2月6日

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