KAL機爆破の実行犯、金賢姫による手記。
下巻では、韓国で裁判にかけられて死刑判決を受け、その後、特赦によって自由の身になった著者が、その後の韓国での生活で感じたことを交えつつ、北朝鮮で工作員として送った日々について詳しく紹介している。
工作員らの生活は、一般社会から隔離された「招待所」で軍事的な訓練を受け、夜も寝ずに外国語の勉強をし、時には偽のパスポートで海外に行って語学能力の向上を図ったり、海外(特に資本主義社会)での生活についての知識を深める生活だ。
豊かで自由な国から帰国すると、外国への想いが断ち切れずに苦しみ、一層「思想」の学習に取り組んで「国家(党)に対する忠誠心」を固めようとする様子なども描かれている。
北朝鮮のこうした学習について、よく「洗脳」と表現されるが、正確には「いかに自分の考えを持たないか」という訓練のように思える。北朝鮮では、自分で自由に考えること、自由に感じること、それ自体が許されていないのだ。
非常に固い思想の持ち主だった彼女は、だからこそ南北分断の現実と、独裁国家の政治によって利用され、そのためだけに8年もの時間を工作員の訓練に費やす。そして、韓国の旅客機の爆破が「祖国統一」に繋がる重大な、そして正しい任務だと信じてそれを実行に移した。
こうしたことを可能にした北朝鮮が「異常な国」であることは確かだが、翻って、日本にもかつて似たような状況があったこと、そしてそうした状況二度と復活させないためにわれわれ一人ひとりがどうすべきなのか、考えることはたくさんある。
- 感想投稿日 : 2017年6月23日
- 読了日 : 2017年6月23日
- 本棚登録日 : 2017年6月23日
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