愛を感じるとき (文春文庫 キ 8-3)

  • 文藝春秋 (1995年12月1日発売)
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KAL機爆破の実行犯、金賢姫のエッセイ集。
手記「いま、女として」の内容を踏まえたものとなっており、特赦を受けた後、捜査官らの保護を受けつつ手記を書いたり、講演を行ったりする生活の中で感じたことが書かれている。

罪人であるという罪悪感に苛まれつつも、結婚に対する強いあこがれを抱いてみたり、華やかな服を着てみたいと思ったり、しかしそれらの考えを必死で打ち消しながら生きる様子が非常に生々しく、また人間的でもある。

もっともつらい部分は、彼女が脱北者の本を通じて自らの家族についての情報を得る部分だ。
元外交官だったその脱北者は、アフリカで勤務している時にアンゴラで働いていたある男性を国に連れ帰るよう指示される。それが、アンゴラ大使館で働いていた金賢姫の父だった。北朝鮮は彼に「昇進のため」と騙して帰国させる。その後、彼女の家族がどうなったかは定かではない。
その「帰国指示」が、金賢姫がまだ自殺未遂から目を覚ました頃、まだ彼女が北朝鮮人であることも明確になってない時期に速やかに行われたことに彼女は心を痛める。
国の命令に徹底的に忠実に従い、家族にも黙って工作員としての訓練を受け、そして多くの人を殺すことになった彼女が命令通りに自殺までしようとしたのに、何も知らなかった彼女の家族は国によって迫害を受けたのだ。

115人を殺した加害者でありながら、自らも祖国の犠牲者であり、また自分の存在のために愛する家族が迫害されているという複雑な状況は彼女をこれからも苦しめ続けるだろうが、少しでも人間らしい生活を韓国で送っていることを願ってやまない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 学術:北朝鮮
感想投稿日 : 2017年7月1日
読了日 : 2017年7月1日
本棚登録日 : 2017年7月1日

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