合資会社を上場することの一番の効用は、財務上のリスクを株主に転嫁できることだ。言うまでもなく、株主だけの問題にはならない。ウォール街の投資銀行が大失敗をしでかせば、そのリスクは合衆国政府の問題になる。「深みにはまるまでは、レッセフェールだ」と、元CEO は喉の奥で小さく笑った。
マイケル・ルイスはこの壮大な物語を締めくくりとして、嘗て糾弾した旧ソロモンブラザーズのジョン・グッドフレンド元CEOとのランチのシーンを選んだ。彼がライアーズ・ポーカーで徹底的に糾弾した後も、金融資本主義は自己増殖を続け、遂に世界経済を破滅の淵に追いやることになった。
この壮大な賭けの相手方は誰なのか、本書を通して流れる一つのテーマである。バーリやアイズナーがサブプライムローンで仕組まれたCDOが破綻する側に賭けた時、相手方の投資銀行はそのポジションを他の投資家に売却したかのように見えた。実際、それが証券会社のビジネスモデルであり、AIG-FPのような無謀な投資家がいたからこそ初期の賭けは成り立っていた。しかしここでも金融資本主義の自己増殖の原則が働き、いつの間にか自らポジションを抱え込んでいた。彼らは高度なリスク管理モデルを持っていたはずだった。しかしそれは極めてナイーブな前提の上に成り立つ砂上の楼閣に過ぎなかったことを、筆者はメリルリンチの例を通じて描き出している。
あれから6年、国際金融規制強化の流れは今なお続く。規制・監督側はことある毎に「too big to fail」と呪文のように唱える。バーリやアイズナーは壮大な賭けに勝った。しかしその賭け金は結局のところ、アメリカ政府が負担したのではないか。その限りにおいて、マイケル・ルイスの長い旅は終わらないのだろう。最新作「フラッシュ・ボーイズ」を読むのが楽しみ。
- 感想投稿日 : 2014年11月2日
- 読了日 : 2014年11月2日
- 本棚登録日 : 2014年11月2日
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