千円札は拾うな。

著者 :
  • サンマーク出版 (2006年1月20日発売)
3.26
  • (98)
  • (235)
  • (546)
  • (116)
  • (27)
本棚登録 : 2039
感想 : 352
2

本棚整理をしていたら、5年前に購入したこの本が本棚の奥から出てきた。

本書の著者である安田佳生氏の会社、㈱ワイキューブは2011年3月31日に負債40億円で民事再生法の適用を申請している。そのことを念頭に置きながら2006年1月に発行された本書を読み返してみた。

この会社は中小企業を対象とした経営戦略立案や人材・営業コンサルティング事業を展開していたのだが、なぜこの業種の企業が売上の3倍に匹敵する負債を抱えてしまったのだろうか。リーマンショック以後の経営不振で新規事業に大金をつぎ込んでしまったのか。製造業のように設備投資、部材仕入、在庫などを持たないコンサルティング会社が、本業のコンサルティング業務の不振だけでここまで負債が膨らむのだろうか。

著者が会社を潰してしまったことは残念だが、だからといって本書の中身が全て間違っているとは思われない。

新興企業が優秀な社員を集めて成長しようとすれば大企業と同じやり方では成功はおぼつかないし、経営者自身が著書を出して自分の考えを世の中に伝えることは有効な広告宣伝や採用活動にも繋がるだろう。

思うに、著者はビジネスのスタートアップや企業が上り調子の時にそれを加速させることに長けた経営者ではあったものの、リーマンショックや東日本大震災のような景気後退局面での撤退戦、戦線の縮小が不得手な経営者だったのではないだろうか。本書で述べられているような社員用のビリヤード付のバー等をマスコミで宣伝してしまったた手前、縮小路線に変更が出来なくなったのかもしれない。

景気や会社の成長曲線が上り調子の時に給与や福利厚生のレベルを引上げて会社を一気に拡大軌道に乗せることはマスコミにも社員にも好意的に受け取られるため苦労と感じずに遂行できるかもしれない。

しかし、一旦潮目が変った時の撤退戦となれば話は別だ。景気低迷の度合いにもよるが、社員の解雇、賃金引下げ、オフィス縮小を行う必要も出てくるだろう。今までの成長路線に慣れた社員には失望感を与え、経営者の経営能力や個人の人格までが非難の目で見られることを覚悟しなければならない。またそうした中でも残留した社員の士気を維持していかなければならないのだ。

処分するつもりの古本群の中から突然出て来た本書だが、5年前よりもより多くの考える切っ掛けを与えてくれた事が実に拾い物であった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ビジネス
感想投稿日 : 2011年8月28日
読了日 : 2006年5月28日
本棚登録日 : 2011年8月28日

みんなの感想をみる

ツイートする