サービスの天才たち (新潮新書 42)

著者 :
  • 新潮社 (2003年11月1日発売)
3.15
  • (7)
  • (19)
  • (45)
  • (8)
  • (6)
本棚登録 : 255
感想 : 44
3

「5日から一週間でなじむようになって、そのスタイルがなるべく長持ちするように切るんです。髪の毛は一日に約0.3ミリ伸びると言われています。ですからその人が次に来るのが三週間先なのか、それとも一ヶ月先なのかを考えて、それに合わせて切るんです。」
彼のスタッフも相当な技量は持っているのだが、佐藤さんとは決定的に鋏の音が違うのだ。一体どこが違うのか。
違いは一つだった。佐藤さんは鋏の先端を大きく開いて、ばっさり、ばっさり、切っていく。鋏を大きくゆっくり動かしていく。それに対して他の人は鋏を少し広げてしゃきしゃき切っていく感じだ。鋏を動かす回数が多いから神経質な動きに思えてしまう。
それにしても、鋏を開く幅にしてわずか二センチほどの違いである。しかし、その二センチが名人と普通の人を分けるのだ。

私は彼らがやったことの中でもっとも大事なことは「食べる人と話をしたこと」だと思う。レストランのシェフは基本的に客の前には出てこない。しかし、家庭で料理を作るお母さんは家族の顔を見ながら、話をしながら献立を決める。彼らの料理が客に受け入れられるようになったのは調理技術が進歩したのではなく、客の意見に耳を傾けたからだ。
「たとえばほうれん草のおひたしひとつ取っても、入居者が望むものは和食屋のおひたしとは違うんです。和食屋では色にこだわります。そしてゆでた後に、出汁のなかに泳がせます。でも入居している人たちが食べたいおひたしとはゆでたものをぐっと絞っただけでいい。そこに醤油をかければそれでいいんです。冷奴もそうでした。絹ごし豆腐でなく、木綿がいいという人の方が多かった。」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: サービス
感想投稿日 : 2012年4月25日
読了日 : 2012年4月25日
本棚登録日 : 2012年4月25日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする