外資系金融の終わり―年収5000万円トレーダーの悩ましき日々

著者 :
  • ダイヤモンド社 (2012年9月14日発売)
3.68
  • (72)
  • (194)
  • (142)
  • (28)
  • (5)
本棚登録 : 1472
感想 : 177
2

☆2(付箋7枚/P240→割合2.92%)

ブログがベースなのかな。ちょっと覗き趣味も満たしてくれて面白いのだけれど、それよりもマクロ経済ってどういうことか、内輪から見るってこういうことですよね。腑に落ちます。
そもそもCDOは小難しくて複雑な金融商品を編み出すのが得意なフランス人発祥とか、不謹慎ながら少し笑ってしまいます。

近いジャンルの本は読んでいて繋がる事があります。この本で、銀行と商圏銀行と投資銀行とヘッジファンドの違いを説明していて、銀行システムは1000円預けたら、10円しか手元に残さず990円は利子を取って市場に回すというような説明があった。
間違いではない。だけど、金融システムを表現するものとしては、少し前に「円の支配者」で読んだ、990円を市場に回すのではなくて、1000円手元に置いて99万円市場に回るんだ、という表現がより正確に思う。

こういう本で自分なりに理解しないと、専門的な本を読むのも難しいよなぁと思います。この本からは文献は広がってくれないけれど、理解することの土台の一つとしても楽しく読みました。

・グリーンスパンは、1987年から2006年まで、19年間もFRB議長を務め、その巧みな金融政策の指揮で「金融のマエストロ」の名をほしいままにした。ちなみに、グリーンスパンの前のFRB議長が、現在さかんに議論されているボルカー・ルールのポール・ボルカーである。そして、グリーンスパンの次のFRB議長がベンジャミン・バーナンキである。
アメリカ経済のこの黄金時代には、市場参加者の間では「グリーンスパン・プット」という言葉が囁かれていた。プットというのは、参照する資産価格が下落すると儲かるプット・オプションのプットである。グリーンスパン・プットとは、株価が急落してもグリーンスパンが利下げをして必ず支えてくれるから、株などのリスク資産を買うのはプット・オプションを買っているようなものだ、という意味である。
こうしてアメリカのマクロ経済政策が、ある意味でうまくいきすぎていたのだ。このような右肩上がりの経済で、グリーンスパン・プットがある状態なら、投資家はどのような行動をとるのだろうか?
「少しでも利回りが高いリスク資産を、借金して買えるだけ買う」である。こうしてリスク資産がますます値上がりし、低下した利回りで利益を上げるために、投資家は借金でレバレッジを掛けて、さらにリスク資産を購入していったのだ。

・このようなデリバティブ商品は、最終的には買い手と売り手で決済される。デリバティブ商品はひとつひとつの取引を見れば完全なゼロサムゲームで、片方のもうけは必ず片方の損失から来ているのだ。だからこういったトレードをするときは、必ず相手の信用をチェックしないといけない。なぜならば、いざ支払いということになって相手が支払えないのでは困ってしまうからだ。これをカウンター・パーティリスクという。
じつはCDSを売ってボロ儲けしたヘッジファンドや証券会社は、こういった巨大なカウンター・パーティリスクを取っていた。これほどの金融危機では、本来は相手が破綻してしまい支払ってもらえない状況だったのだ。それでも支払われた。それはアメリカやドイツ、イギリス、そして日本などの世界中のなにも知らない納税者が間接、直接的にAIGやシティ・グループのような、本来はつぶれるはずだった金融機関を税金で救済したからだ。

・たとえば、満期が一ヶ月の借入金で満期が10年の債券を買うとしよう。一ヶ月の金利が0.1%で、満期10年の債券の金利が1.5%だとする。短期資金で100億円借りて、長期の債券を100億円買う。この短期資金は一ヶ月ごとに返さないといけないので、毎月毎月新たに借り直さないといけない。これをロールする、という。こうやって短期資金を次々とロールしていけば、この場合は1.5%-0.1%=1.4%の金利差があるので、100億円×1.4%=1億4000万円が毎年儲かることになる。
それでは、そのリスクは何か?それはこの市場でこの銀行は危ないかもしれないと思われて、銀行が短期資金を新たに借り直せなくなると、その時点で現金がなくなるので、倒産してしまうかもしれないことだ。この場合は、長期の債券を市場で打って、なんとか現金を手に入れようとすることになる。しかし、そういう信用不安が起こっているときは、簡単に債権の買い手が見つからなかったり、見つかっても非常に不利な価格でしか売れなかったりする。このように短期の資金で、長期の貸出や投資をする、というのは危険なつり橋を渡るようなビジネスなのである。金融機関がつぶれるのは、ビジネスで損をしたからつぶれるのではなく、市場からの信用を失い新たな資金を借りられなくなってつぶれるのだ。

・日本国債が暴落するかどうかは、一にも二にも、これら邦銀が国債を買い続けるかどうかにかかっている。そして僕は、買い続ける、と思っている。
邦銀が国債を買うのは他に貸し出し先がないからであり、経済の低迷が続く日本で、それがこれから急に変わるとは思えない。また、邦銀にお金を預けている日本の高齢者が、急に預金を引き出して海外に投資しはじめるとも思えない。高齢者の預金はやがて相続されるのだが、日本では80歳、90歳のお年寄りが無くなり、60歳、70歳の「子ども」に遺産が相続されているのである。60歳、70歳の子どもたちが、急に投資行動を変えるようには思えない。そして邦銀が、集めた預金で国債を買う、というお気楽なビジネスモデルをやめるとも思えない。

・トレーダーだったら、クリスマスイヴやクリスマスには、ケーキや七面鳥には目もくれず、12月26日以降にこれらの商品が暴落したところを買い叩いて、豪勢に七面鳥を食らいながら、クリスマス用の赤と緑のリボンが付いたシャンパンで祝杯を上げたいところだ。
さらに想像を絶するのが、指輪やイヤリングなどの宝飾品だ。これらは10万円で買っても、質屋に売るときは1万円にもならない。売値(オファー)と買値(ビット)の差、つまり、ビット・オファー・スプレッドが9000ベーシス・ポイントなんて想像を絶するぼったくりである。こんなものを買う奴は頭がおかしいとしかいいようがない。

・アメリカでは、貧乏人の住宅ローンを寄せ集めたMBSのクズをさらに束ねたCDOが、急にアメリカ国際並みのトリプルAの信用を得るという奇跡が起こっていた。日本では、並程度の容姿の若い女を大量に寄せ集めて結成されたアイドルグループAKB48が大ブレークし、プロデューサーの秋元康に巨万の富をもたらした。そしてヨーロッパでは、二級国家を寄せ集めて通貨をユーロに変えると、二級国家の金利も低下するというマジックが起こっていたのだ。「寄せ集める」というのは、どうやら七難隠す不思議な力を持っているようなのだ。

・ところで、これからアメリカ人の雇用は回復するのだろうか。僕は、かなり悲観的である。それは、アメリカの一部の世界的な企業はたしかに強いのだが、アメリカ人の雇用に結びつくようにはとても思えないからだ。アップルの従業員数は6万人、グーグルの従業員数は3万人、フェイスブックの従業員数は2000人、そして、ツィッターにいたっては200人ぐらいである。これは世界全体での数字だ。一方で、日本のトヨタ自動車もパナソニックも、従業員数はそれぞれ30万人以上もいる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 経済
感想投稿日 : 2015年3月8日
読了日 : 2015年3月8日
本棚登録日 : 2015年3月8日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする