申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。

  • 大和書房 (2014年3月26日発売)
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☆3(付箋12枚/P317→割合4.42%)
辛口でとっても面白い。ポーターのフレームワークで前半部が定着したのは退屈な3章以降を読み切った人がいないからだろうとか、結局コンサルでやってるのはコミュニケーションだとか、確かにそういうものですね。納得。

・問題はサプライチェーンや工場の整備状態や、個々の改善課題や生産工程にあるわけではない、とわかっていたことだ。問題は状況に反応する人間の側にある。ビジネスの問題はことごとく、状況に対して反応する人間が引き起こしている。

・私がこの本を書いたのは、経営コンサルタントとして30年も働いてきて、いい加減、芝居を続けるのにうんざりしてしまったからだ。
まったくどれだけ芝居を打ってきたことか―「この在庫管理システムを導入すれば、問題は解決します」とクライアント企業に断言しながら、肝心なのはサプライチェーンの部門間の信頼関係を構築することだったり、「商品開発プロセスエンジニアリング」と銘打ったプロジェクトを立ち上げていても、実際にやっているのは、営業、マーケティング、研究開発(R&D)の各部門の連携強化だったり、コンピューター並の明晰な思考力で問題を解決したように見せながら、本当はクライアントの関係者の思惑を読み取るのがうまいだけだったり。
何よりいたたまれないのは、クライアント企業の従業員を「資産」として扱い、監視、評価、標準化、最適化すべきであると唱えてきたことだ。
私が自分のやっている仕事をありのままに話せないのは、「貴社の関係者の連携を強化するお手伝いをします」なんて言っても、誰もコンサルティングの仕事を頼んでくれないからだ。

・『競争の戦略』によって、マイケル・ポーターは企業人の頭に「競争優位性」という言葉を植え付け、有名な2つのモデルを提唱した。ひとつは、「5つの競争要因」で、業界の競争をめぐる3つの内的要因(既存の競合企業同士の競争、買い手<顧客>の交渉力、サプライヤーの交渉力)と2つの外的要因(新規参入企業の脅威、代替品の脅威)からなる。
これは業界分析を行うためのフレームワークであり、第一章で紹介されている。第二章では、その次に有名な「ポーターの3つの基本戦略」、すなわちコスト・リーダーシップ戦略、差別化戦略、集中戦略が示される。業界における自社の立ち位置によって3つの戦略のうちどれかを選び、競争優位性の確立を目指す。
あとの章はとんでもなく包括的な青写真といった感じで、競合分析、競合の反応予測、代替戦略決定のための業界構造分析などを扱っており、項目ごとに膨大な数のチェックリストがついている。
私はこの本を読もうとして何度も挫折したあげく、やっとの思いで読み終えたとき、ふと気がついた。この本のうち「5つの競争要因」と「3つの基本戦略」だけが経営用語として定着したのは、おそらく挫折しないで第三章以降も読み切った人がほとんどいなかったからにちがいない。

・私たちはまず巨大な作戦司令室を設け、経費削減目標に対する進捗状況を示すチャートやグラフを壁じゅうに貼り付けた。なかでも目を引いたのは「資産効率性」というタイトルで幅約1メートルの模造紙に描かれた棒グラフで、社内の各部署の面積1平方フィートあたりに生み出される収益の額を示したものだった。
当然ながら、最も生産性が低いのは肥大化した本社組織と巨大な研究センターだ。現実的にはそれらの部門を売却するわけにはいかないが、このグラフによって私はコンサルティングに関する重要なことを学んだ。このように細かい分析を行って、その結果を立派なグラフにまとめれば、クライアントは感心してくれる。あとは、ひとつの指標をX軸に、別の指標をY軸に置いた4象限のチャートを作ること。このふたつのはおそらくコンサルティングスキルのなかで最も使える重要なスキルだろう。

・戦略策定の実行における問題は、戦略策定は、今後の経済状況や、業界の変化や、競合他社の動向や、顧客のニーズを予測できることが前提となっている点だ。
しかし、そんなことがまともにできる人間はいない。だからこそ、金融の専門家はインデックスファンドへの投資を勧めるのだ。大多数のミューチュアルファンド・マネージャーは、大多数のリサーチャーを使って盛んに研究を行っても、打ち負かしたいと思っているインデックスファンドよりよい運用成績をあげることができない。
将来を予測するのが仕事の世界的な経済学者にしても、2008年に起きたリーマンショックを予測したものは皆無に等しかった。にもかかわらず、将来を予測し、将来の事業構想にしたがって計画を実行に移すのが、ビジネスのベストプラクティスとして、企業が成功するために必要なこととされているのだ。

・ある地域マネージャーは、毎年とうてい達成不可能な売上目標を課せられることに、いい加減うんざりしてしまった。自分がボーナスをもらえないだけでなく、チームの部下全員が目標未達の罰としてボーナスをもらえなかったのだ。自分だけが罰を受けるならまだしも、必死でがんばっている部下たちに毎年、毎年、インセンティブ支給の基準を達成できなかったと告げるのは、身を切られるほど辛かっただろう。
ある年、その地域担当マネージャーは、今度こそは年度末の売上目標を達成できるように、申し訳ないが必要数よりもかなり多めに発注してほしい、と取引先の販売代理店に頼み込んだ。売れなかった分はあとで返品してもらって構わないから、と約束した。その結果、彼のチームはついに目標を達成し、ボーナスを獲得。ところが翌々四半期になると、会社には大量の返品が押し寄せた(地域担当マネージャーはとっくに辞意を固めていた)。
返品後に売れなくなった商品のほとんどを償却するだけでも会社にとっては巨額のコストだが、それ以外にも余計な手数料や在庫保管量がかかるうえに、騒ぎの影響で各方面への対応にも追われた。
その地域担当マネージャーを弁護するなら、彼が達成を命じられた売上目標はどう考えても現実的なものではなく、停滞した市場で二桁成長を実現したいという経営幹部の野望が押し付けられたにすぎなかった。
このような考え方の根本には、「ストレッチ目標を与えれば、現場はどうにか知恵を絞って達成するものです」というコンサルタントのアドバイスが透けて見える(私もかつてはそう言っていた。本当に申し訳ない)。たしかに、彼らは知恵を絞ったのだ!

・「斬新で革新的な家電をつくりたい」と思っている企業が、「ではそれを測定可能な表現にしてみましょう」とコンサルタントからアドバイスを受けたとする。たとえば「年末までに斬新で革新的な商品をX個つくる」といった感じだ。このシナリオはさきほどの減量か健康的なライフスタイルかの問題に相当する。つまり、目的がまったく異なるのだ。後者の目標で最も重要なのは「期限」と「数量」であり、「斬新で革新的」という部分は二の次になってしまう。あげく、とても革新的とは言えない新商品が次々に登場する。その企業が望んでいたこととは正反対の結果だ。

・残念ながら、ほとんどの社員は評価スコアを聞いてがっかりする。このシステムでは社員の業績分布を釣鐘曲線に当てはめて業績の高い者と低い者を割り出すため、大部分の社員は平均ランクということになる。
これは私たちの自己評価とは大ちがいだ。私たちは誰でも、自分は平均より上だと思っている。これは裏付けのある認知バイアスで、「平均以上効果」「寛大化傾向」「優越バイアス」「レイク・ウォビゴン効果」などと呼ばれている。
トム・コーエンズとメアリー・ジェンキンスは、共著『業績考課を廃止せよ』(未邦訳)において、こう述べている。「社員のほぼ全員が自分のことを優秀だと思っている。だから業績考課の評価やランク付けが最高のレベルでない限り、がっかりしてしまう。実際、社員の98%は自分の業績は上から半分以上には入っていると考えており、しかも80%の人が自分は上位4分の1に入ると思っている」

・2011年3月、グーグルは優れたマネージャーの特徴を明らかにするための「プロジェクト・オキシジェン」の2年間におよぶ研究の成果を発表した。グーグルが独自の研究プロジェクトを立ち上げ、何千例もの業績考課やフィードバック調査を分析して独自のモデルを構築したのである。
その研究成果は「ニューヨークタイムズ」のビジネス欄の見出しを飾ったほか、ビジネスやテクノロジー関連のブログ等で数多く紹介されている。
グーグルの画期的な研究成果は、重要な順番に次のとおりである。

<グーグルによる「優れたマネージャーの8つの習慣」>
①優れたコーチであること。
②ある程度はチームのメンバーに任せ、細かく管理しないこと。
③部下の成功と幸せを気にかけていることを態度で示すこと。
④生産的で成果志向であること。
⑤コミュニケーションをよく取り、チームの意見に耳を傾けていること。
⑥部下のキャリア開発を支援すること。
⑦チームのための明確なビジョンと戦略を持っていること。
⑧チームにアドバイスできる重要な技術的スキルを持っていること。

この新しいモデルはメディアの賛否両論を呼んだ。少なくともこの50年間、マネジメントの原則の基本として信奉されてきた黄金律となにも変わらないではないか。マネジメントに関する基本的な本や研修に参加したことのある人なら、そう思うかもしれない。そうは言っても、ほかのモデルに比べてずっとシンプルだし、重要な順番に原則が示され、裏付けとなるデータも揃っている。
グーグルのように世界で最も評価され、規範とされている企業でさえ、優秀なマネージャーの特徴を明らかにするための研究を行う必要性を感じたという事実は、ビジネスの世界で優れたマネジメントを行うのがいかに難しいかを物語っている。

・ずばり、私が言いたいのは、優れたマネジメントというのは難しい理屈ではなく、「人」だということだ。なぜ私たちはやたらと複雑に考えてしまうのだろうか。優れたマネージャーになるには、まずは自分自身のことを管理して、勤めを果たさなければならない。次に、周りの人たちとよい関係を築く必要がある。自分や部下たちの将来も考える必要はあるが、それほど重要なことではない。
…マネジメントの本のなかには、部下と友だちのように仲良くなってはならない、と強く戒めるものが何冊もあった。訓話よろしく次のようなエピソードが出てくる。
「以前、私たちは仲がよかった。やがて私が昇進して上司になると、彼はひどいやっつけ仕事を提出して私に承認を求めた。あるときは提出すらしなかった。それでも私になら大目に見てもらえるか、代わりにやってもらえるだろうと思っていたのだ」
まったく呆れた話だ。それが仲の良い人間のすることか?私の仲のいい部下が馴れ合いでそんなふざけたマネをするなんて絶対にありえない。そんな間柄は親しくも何ともない。むしろ敵ではないか。

・(ピーターの法則が本当かどうか確かめるため)イタリアのカターニア大学の3名の学生はエージェントベース・モデルを作り、コンピュータ上でシミュレーションを行った。
階層型組織に160のポストを設け、各エージェントに年齢や能力レベルを当てはめ、無能なエージェントのクビを切ったり定年に達したエージェントを退職させたりして、空きのポストをつくった。それから、エージェントを次のレベルに昇進させるにあたり、3つのルールをつくった。①最も有能な者か、②最も無能な者か、③ランダムに昇進者を選択する、の3つだ。
また、昇進後の能力を見きわめる方法としては、2種類のシミュレーションを用意した。まったく別の新しい基準で評価するケースと、以前の基準の条件を変更して評価するケースだ。
①の最も有能な者を昇進させる方法は、エージェントが昇進後も引き続き能力を発揮できた場合にのみ有効であると言えた。組織で最も優秀な者たちはあらゆるポストにおいて最も優秀な業績を上げるという確信がなければ、この方法による効果は期待できない。昇進後に能力を発揮できなければ、有能な者を昇進させたはずが、組織全体に無能を蔓延させる結果になるからだ。
昇進後に能力を発揮できなかったケースが最も少なく、そういう意味で最もリスクが低かった戦略は、なんと、最も業績の低い者と高いものを交互に昇進させる方法だった。また、社員をただランダムに昇進させた場合も同様にうまくいった。
この最後のふたつの方法では、社員があるポストで能力を発揮できなければ、ほかのポストへ移ることができるし、それが「ピーターの法則」による現象を防ぐための唯一の方法である。

・どうしたら組織の力を最大限に引き出せるか?どうしたらもっと多くの社員の業績を上げられるか?その答えは、もっと多くの社員が自分にぴったりの職務を見つける手助けをすることにある。それには適正のある職務や、相性のよい上司と仲間、そして適切なスキルが必要だ。そのような職務が全員に見つかるとは限らないが、探そうとしなければ見つからない。それなのに、職場でこのような話し合いが持たれたことは一度もなかった。
それどころか、私たちは社員の業績考課の評価スコアをめぐってもめにもめ、マネージャーたちには全体の業績分布が釣鐘曲線を描くようにと念を押し、誰にどんな研修を受けさせようかと本人たち抜きで案を練り、次世代育成計画を書面にまとめる。そんなことにばかり時間を費やしている。おまけに、万一、経営陣の半分が航空機事故で死亡した場合の人事の危機管理計画まで作成するヒマはあっても、大部分の社員の能力を最大限に引き出すための対策を練る時間はないのだ。

・有名な例では、土などをシャベルですくうために最も効率のよい作業方法を見つけるにあたり、テイラーは人による身長や体力の差や体型のちがいを考慮せず、最も体が大きく頑丈な作業員の動作を観察した。しかも、その作業員に、長く続けることなどできないような最高のスピードで作業をさせたのだ。
現在ではテイラー主義は大部分において否定されているとはいえ、企業は事業をモニタリングや計測や最適化することによって成功できるという考え方は、現代の経営手法にもいまだに残っている。
我々はテイラーの効率化運動のお題目をいまだに唱えているのだ。
…科学における物体には意思がないため、自然の法則に従って動く。物体には意識もなければ、エゴも、感情も、ユーモアのセンスもない。
それとは対照的に、私たち人間の属する動物界ではビックリするようなことが次々と起こる。ペンギンにはゲイがいるとか、バクテリアは複雑な言語を「話す」とか、ハトは迷路を抜け出せるとか、いったい誰がそんなことを想像しただろうか?それなのに経営科学は、人間は定められたルールに則って行動する理性的な存在である、という前提に立っている。
個々人のことを考えれば、人間は必ずしも理性に従って行動するわけではないとわかっているのに、人間を集団としてとらえると、なぜか非理性的な部分は見えなくなり、理性的に行動するものと考えてしまうのだ。
実際、企業経営は科学ではないから「答え」などないし、ましてやビジネスの「ソリューション(正解)」など存在しない。にもかかわらず経営理論は、多数の方法論やあらかじめ用意されたソリューションでできており、成功への手順を指示するのだ。

・大事なのは、お金をいただく価値のあるものを創り出すことではないのか?それは、ただカネ儲けが目的のビジネスとはわけがちがう。私たちがアップル社の製品が好きなのは、まさか利益率が高いからではないし、薬を買う理由も、製薬会社の一株当たりの利益が高いからではない。わずかでも、自分たちの生活をより良いものにしてくれると思うからだ。買ったもので生活がより良いものになると思えば、みんな進んでお金を払おうとする
私の経験から言っても、「どうしたらもっとよいサービスを提供できるか」と言っていた企業が「どうしたら最も儲かる業務契約を取ってこられるか」と言い始めたり、「どうしたら人の命を救う薬を開発できるか」と言っていた企業が「どうしたら巨額の利益を出せる薬品を開発できるか」などと言い始めたりしたら、企業が衰退に向かっている警告のサインだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 経営
感想投稿日 : 2015年5月17日
読了日 : 2015年5月17日
本棚登録日 : 2015年5月17日

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