ハーモニー (ハヤカワ文庫 JA イ 7-2)

著者 :
  • 早川書房 (2010年12月8日発売)
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感想 : 1005
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前作の『虐殺器官』が合わず、積読すること10年。何を思ったか読み始め、一気に読み通した。

舞台は21世紀の後半。〈大災禍〉と呼ばれる核戦争、その後の未知のウイルスの発生、放射線による癌の蔓延を経て、世界は各国政府による統治ではなく、医療合意共同体である生府による政治形態に移行した。すなわち、健康を至上命題とし、体内に埋め込んだ医療システムによる常時監視である。体に悪いことは警告が発せられ、食事はデータ化、体内の異常にはシステムから自動的に修復プログラムが送信される。これにより、ほぼ全ての病は駆逐され、老いすらも克服されようとしている。ウイルス蔓延後の世界…。今の時期にこれを読むと、どうしてもアフターコロナの先取りをSFがしているように思えてしまう。

ユートピアのようではあるが、一切の嗜好品は禁じられている社会である。人々は、それが禁じられていることにも気がついていない。なぜなら、最初から選択肢にないからであり、何を食べるか、どんな運動をするか、いつ寝るか、そのような選択をすることはシステムに外注しているからである。ディストピアは、本人たちが気が付かないうちにそこに現れる。

身体の監視により、健康に悪い生活習慣を一掃した社会が次に考えたのは、意識の制御であった。脳も身体の一部であるなら、そこから派生する意識をも制御することにためらいはない。苦しみや絶望、葛藤を取り除き、調和のとれた意思を再設定する計画「ハーモーニー・プロジェクト」。その結果は…。
このくだりを読んだ私は、本当に驚き、また納得した。ああ、なるほど、そうなるよね。しかも、そうなっても当人の生存に全く影響はなく、周囲の人間は気がつかないという。怖!怖すぎる。

ラストで、本書はetmlというテキストコードで書かれたものであることが明かされる。たしかに、ところどころhtmlのようなコードが記され、感情を表す英単語が挿入されていた。読書中は変わった趣向だなくらいに思っていたが、実はそれすらも大きな仕掛けであったことが判明する。
今さらながら、凄いSFを読んでしまった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年1月5日
読了日 : 2021年1月5日
本棚登録日 : 2021年1月5日

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