未来、宇宙にまで進出した人類。
その人類を害する目的で、人類の過去に干渉する異類の生命体ET。
ETから人類を救うべく、人類は自らの過去に遡行してETと死闘する。
そんな設定の物語だった。
SFとしてはどうなのかなと思う。
科学的な裏づけに納得感が薄かったような。もちろん、科学的知識に乏しい私には読み取れなかっただけかもしれないのだが。
時間遡行は、少なくとも現在の人類にはまだ夢物語だと思う。そんな技術を物語の仕掛けの中心に置いてあるので、どうにも科学というより空想の色あいが濃くなるというか…。
ただ描かれる人物に私は魅力を感じた。
時間遡行をくりかえしくりかえし、絶望的なETとの戦いに挑む「使いの王」オーヴィル。
人型人工知性体であるオーヴィルに、ひととしての感情と使命感を灯したサヤカ。
ETを追うオーヴィルと戦いを共にする邪馬台国の巫王、卑弥呼(彌与)。
オーヴィルの剣であり、時間戦略知性体カッティ・サーク。
彌与に仕える少年、幹。
オーヴィルの同僚、アレクサンドル。
それぞれの立場や思いは異なっても、人類を(自らを)守るためにETと闘う。
その闘いも息詰まる緊張感だが、むしろ避けえぬ闘いに身を投じながらも、彼らの生の芯の強さが迫ってくるようで切ない。
レビューを見るとSFとしての評価が高いようなので、そういうものかとちょっと意外だった。私としては先にも書いたとおり、SFというよりも群像劇として小説としての面白さに惹かれた。
「自我とは履歴で、履歴を創るのは自分だ」との一文とか、ETが何故人類を滅ぼそうとするのかを知ったときのアレクサンドルの(ある種の)絶望だとか。カッティの最後に抱いた希望も。
ラスト、落としどころというか、後日譚というか、種明かしというか。
無理にハッピーエンドを持ってこなくても、という違和感もあったが、これはこれでよかったようにも思う。
漫画になるが、清水玲子「月の子」のラストをふと思い出した。「月の子」のラストシーンを夢オチというひともいたが、私はあれはあれで斬新だったと思ったのだ。物語が物語ったそれまでのストーリーが夢なのではなくて、私たち読者が存在するこの現実世界のほうが夢なのだと示唆するようで、一般的な夢オチではなかったと解釈したので。
この「時砂の王」もそれと類似のように見えた。
私たちの生きるこの現実は、どこから継いでどこへつながり、そしてどんな結末を導くのか。「時砂の王」が導かれたハッピーエンドの展開には…私たちのいる時間枝からは、行けない。
- 感想投稿日 : 2023年7月4日
- 読了日 : 2023年7月4日
- 本棚登録日 : 2023年7月4日
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