悩みどころと逃げどころ (小学館新書 ち 3-1)

  • 小学館 (2016年6月1日発売)
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ちきりんは「好きなことって言うけれど、人から評価されて初めて『コレは自分の好きなことなんだ』と思えたりしませんか?」とプロゲーマーであるウエハラに疑問をぶつける。
思うに自己からの評価が高くないと好きなことは続けられない。そうでなければ好きでい続けることなく厭になるだろう。周囲からの評価も自己評価の指針になるから、その割合が大きいか小さいかという差なんだと思う。


対談の大きなテーマは「学校教育」であるが、ゴールと方法論をセットで指し示される現状の学校教育に対して懐疑的であるという点ではふたりの見解は一致している。

ウメハラ 学校でゴールと方法論をセットで指し示されてしまうと、「自分で考え、悩んであがいた上での自己決定」なんてバカらしくてできなくなる。(P.139)

指し示された方法論でゴールに辿りついた人とそもそも指し示された方法論に適応できなかった人。この真逆の立場を端的に説明するために「学歴がないと例えばアルバイト先でレジのお金が足りなかった時に、一番に疑われる」といった学歴差別の実態をウメハラはいう。

その逸話を聞いて「今は生きていく力が強い人ほど学校に頼らない」という主張が揺らいでしまうのだが、絶句し持論の揺れを認めるちきりんは誠実ではあったと思う。


"指し示された方法論とゴール"というのは詰まるところ高度成長期に設定されたモノだ。成長のピークを超え、人間で言うところの中年〜壮年期を迎えた社会には相応しくない若作りなモノだ。

だから、結果として、力のある人は既存の力(=学校)には頼りにはしない。それ以外のモノを用いて世と対峙する。


eスポーツ・プロゲーマーについて素朴に思うのは、これからも間違いなく職業として成り立ちはするのだろうが、腕を魅せる舞台自体が商品であるゲームである以上限界があるだろうなぁとは思う。

かつての高橋名人や橋本名人のようにPRマンになっていくのだろうか?

いずれにせよこの本で語られていることは「勝った人間の上から目線」という響くだろう。『悩みどころと逃げどころ』という題名を掲げてはいるが、これはミスリードもいいところだと思う。彼女の筆名の頭にInという接頭語をつけるに相応しい。

ちきりんの持論に利用されそうになったウメハラ氏が「例えばメルマガで独占インタビューさせてくれといわれたら、恩義があるので一回だけは応じますが、それっきりです」と返したのは象徴的。

「人生に正解はない」という帯だが、この本は買わないのが正解。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本・雑誌
感想投稿日 : 2018年11月20日
読了日 : 2016年10月24日
本棚登録日 : 2018年11月20日

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