人間の叡智 (文春新書 869)

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  • 文藝春秋 (2012年7月20日発売)
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著者である佐藤優氏は『日本は過去20年、構造的な停滞の中にある。」とし、真・帝国主義という国際環境の中で日本が生き残る叡智を伝えようとする。
神学の世界には「総合地に対立する博識」という格言がある。断片的な知識をいくらもっていも、それは叡智にならないということだ。
断片的な知識をいかに物語りに紡ぐか。
それを念頭に語り下ろしというやさしい語り口で、語られるが、中身が平易なわけではない。

・これまで日本の教育システムは端的に言って後進国型のシステムをとっていた。つまり、暗記したことを再現できる官僚を養成し、外国語のわかる外交官、優秀な税務署長を作り出すことが要請された。これは戦後になっていも変わっていない。(P.12)

・世界が、弱肉強食の帝国主義的傾向を強めているを冷静に認識しましょう。繰り返しになりますが、帝国主義国はまず相手国のことなど考えずに、一国の利益を一方的に主張しする。こうした食うか食われるかの帝国主義的外交ゲームの中で、日本が少なくとも食われないようにすることが、政治家の責務なのだ。そこにしか、日本とあなたが生き延びる道はない。(P.40)

・日本人の思考は実念論(*普遍は個物に先立って実在すると考える立場)的。だから憲法改正論がどれだけ騒がれても具体的な改憲の動きにはならないのに、憲法からはみ出したことも平気で行われる。目に見えないけれど、日本的、日本人的なモノが確実にある。(P.60)そこから外れなければおよそなんでも許されるが、一歩でもはみ出ればパチンとはじき出される社会。天皇の存在も実念論がわからなければ読み解けない。(P.60)

・2011年3月11日に国家の生き残り本能が露呈した。それは現行のシステム(チカラの要素は日米安保に全部預け、それ以外は合理主義的な計算と、生命至上主義、個人の生活が一番大事という個人主義でやっていけばいいという考え方)では日本は生き残れないということが明白になったということ。(P.131)

・エリートというと社会の上層と言うように勘違いするむきがあるが、エリートは各層ごとにいるし、いなければならない。エリートは多重であって、それぞれ求められる資質が違う。多様性の一致が必要。(P.157)

・体制とは、メカニズムではなく生物体のようなものではないか。人々は課成る阿須氏も合理的に動くわけではないので、動かすにはカリスマが必要なことも出てくる。橋下徹大阪府知事の政策はメカニズム的な了解の下でしか出てこない。
橋本府知事の政策は小泉元首相の「聖域なき構造改革」の単なる反復に過ぎない。その小泉元首相の政策も何の思想もなしに、何もしなくていいという政策だから新自由主義を取り入れたに過ぎない。(P.176)

・私(著者)の考えでは、結局、人間はナショナリズムとか、啓蒙の思想、人権の思想、そういうもので動くのだと思うのです。但し、それらの思想は全部まやかし。まやかしだとわかっている人たちが承知の上でそれらを使っていかにイメージ操作をしていくかというのが課題。
換言すれば、物語を作る能力、アナロジーとかアイロニーとかストーリーテリングの力が必要とされる。(P.190)

・読書人口は私(著者)の皮膚感覚ではどの国でも総人口の5%程度(日本でいうと5,600万人程度)。その人たちは学歴、職業、社会的地位に関係なく、共通の言語を持っている。そしてその人たちによって、世の中は変わっていくと思うのです。
それが出来なければ、資本主義の論理にやられてしまう。(P.206)

・品性の堕落とは、実は、知性の堕落。人間を合理的なことだけで捉えられると思っていると、だんだんそういう実利的、刹那的快楽の方向に行ってしまう。(P.213)

・何らかの物語を作らないと、おそらく人間は「死」に対応できないでしょう。
自分が生きてきたことの物語、あるいは自分の親しい人の物語はどうしても必要なのです。(P.221)

<blockquote>・日本が元気に立ち直るためには、日本人一人ひとりが言葉の使い方を変えて、国民の統合する物語をつくりだすしかないのです。そして目に見えないものに想いをはせる。それが叡智に近づく唯一の道だと思うのです。(P.229)</blockquote>

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本・雑誌
感想投稿日 : 2018年11月20日
読了日 : 2013年5月16日
本棚登録日 : 2018年11月20日

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