日々のきのこ

著者 :
  • 河出書房新社 (2021年12月22日発売)
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本棚登録 : 371
感想 : 30
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ばふん、ばふんときのこを踏んで胞子を拡散する「ばふ屋」という職業のある世界。人類は着々と菌に侵食され、山を歩いて空へ飛び立ち胞子をふりまいていく。『マタンゴ』的世界を消極的なユートピアとして描いたきのこSF。


きのこって確かに知れば知るほどこんなもの本当に食べてていいのかと思うよなぁ。そんなぼんやりした不安を抱きながらも美味しくきのこを食べている私たちの未来を描いた作品。複数視点の断章が次から次へと連なるように書かれていて、たまに視点同士が合流してストーリーらしいものが語られることもあるのだけど、それぞれの視点人物は個性が希薄で、全員がゆるやかにひとつに繋がり、思想を共有しているように思える。語り自体が菌糸を模しているのだ。
心地良いけれど気味が悪い。気味は悪いけれど抵抗するほど厭じゃない。そんなふうにして人類は地上の権限を静かにきのこに明け渡していく。地下の菌糸体を思えば、人間がきのこより繁栄したことなんて一度もないのかもしれないけれど。
『エイリア綺譚集』よりずっと好きだった。山白朝子の和泉蠟庵シリーズのようなしとっと浸透してくる語り口で、人間から生えるきのこは生食しても腹を下さないとか、そういうディティールがキモくていい(笑)。きのこを両性具有として書いているのも面白かったし。最後、腐女子と絡めたギャグだけ何?と思うんだけど、この人は女オタクに文学的な居場所を与えたいと思ってるんだろうな。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2023年3月4日
読了日 : 2023年3月3日
本棚登録日 : 2023年3月4日

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