純文学作家の福永武彦が加田伶太郎名義で発表した探偵小説〈伊丹英典シリーズ〉全八篇に、エッセイと対談を加えて収録した文庫全集。
過去の未解決事件の話を聞き、居合わせた4人がそれぞれの推理を披露する安楽椅子探偵もの「完全犯罪」に始まり、『高野聖』を思わせる妖しい夫婦に拐かされたかと思いきや金目当ての行き当たりばったりな犯罪だったと判明する「失踪事件」、女性の手記の形式で書かれた「眠りの誘惑」など、探偵役の伊丹が積極的に関わるものから終わりまで出てこないものまで、ひとつひとつ構成を変えてあるのが面白い。解説の法月倫太郎も言うように、この8篇で本格ミステリにおける探偵像の変遷が追えるようだ。
トリックはやや興ざめだが、小説としては「湖畔事件」が面白かった。死体役と探偵役に分かれて遊ぶ子どもたちが出てきてそれまでの伊丹をパロディ化すると共に、事件の真相すら伊丹と推理作家の単なる推理ごっこだったと告げられる。この拍子抜けを子どもの会話で締めるのがちょっとおしゃれ。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2020年6月28日
- 読了日 : 2020年6月10日
- 本棚登録日 : 2020年6月28日
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