ピサへの道 七つのゴシック物語1 (白水Uブックス 海外小説 永遠の本棚)

  • 白水社 (2013年10月10日発売)
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本棚登録 : 153
感想 : 17

3/18 読了。
人生を仮面劇のように生きた人びとの悲劇とも喜劇ともつかない物語を集めた中篇小説集。「ゴシック」という言葉から連想されるような、鬱蒼とした場所で貧血気味の登場人物がウロウロしてるポーみたいな話はない(幽霊や悲劇のヒロインは出てくるが)。おそらくここでの「ゴシック」は<クラシカルな建築物のように組み立てられた物語>を指すのだと思われる。無駄がなく巧みな構成と、機知に富んだ爽やかな読み心地の文章とで、「小説を読むってこういうことだなぁ」という喜びに包まれた。
また、それぞれの物語に通底するものとして<秘めたる愛>というテーマがあるように思う。結婚式当日に姿を消して海賊になった弟と、オールドミスになった姉との言葉にできない恋や、名前を変えるたびに生き方も変えていく女に、話しかけもせず遠くから見守るだけという約束を死ぬまで守った男の愛情。物語の本筋として語られたこれらの関係だけでなく、「ピサへの道」では、運命に導かれて出逢った老婆と主人公の叔母が同じ香水びんを大事に持ち続けていたことから、二人が深い繋がりを持っていたことが発覚し、主人公は強く感じいる。ここでは示されていないが、物語の冒頭で叔母の形見のびんを眺めている主人公は、妻との離縁について考え、親友に手紙を書いているのだ。そのモノローグのなかで、主人公は結婚相手の理想に「親友のような関係でいられる人間」を挙げる。深い信頼関係で結ばれているらしい親友のことはこの冒頭でしか触れられず、物語にも登場しないのだが、本筋が結婚というもののある種のバカバカしさを暴く内容であることと、老婆と主人公の叔母は互いに一生独身だったこと、老婆からびんを受け取った後の主人公の神妙な心持ちなどを鑑みるに、親友への秘められたる想いがほのめかされていると考えても良いのではないだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2016年3月23日
読了日 : 2016年3月23日
本棚登録日 : 2016年3月23日

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