予定日はジミー・ペイジ (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2010年7月28日発売)
3.89
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4

社会が望む、「理想の母親像」
その1.無条件に子どもを愛している。
その2.母性本能たっぷり。
その3.時には厳しく叱りながらも、大抵は褒めて、上手に子どもを育てられる。
その4.甘い歌声で子守唄を歌い、献身的に…

…はーもう、ちゃんちゃらおかしいっす(笑)ってね。
改めてそう思いました。
いや、思えました、かな。

**

大抵の女性は、「その時」まで、「一人で」生きています。
家族や旦那、恋人、友達はいるけど、でも
何を食べて、いつ寝て、どんなものを買って生きていくかは
その本人の選択の連続。
その殆どが、「自分だけのため」のもの。

でも「その瞬間」からは、世界が一変する。
食べるものも睡眠時間も、着るものも買うものも
お腹の中の「小さくて不安定なもの」を、何よりも一番に考えなければいけない…。

ぽんっとスイッチが切り替わるみたいに
母性本能が湧き出てくるものじゃないんですよね。
機械じゃないんですから。
母親である・ない以前に、その人は
一人の人間で、一人の生き物なんですから。
それこそ、何十年か前にはその「小さくて不安定なもの」、だったんですから。

でも、本作の主人公「マキちゃん」はそこに甘んじない。

「はい、今日から母親ですよ」と言われても、首を傾げる。
あれ?なんだか嬉しくないかもしれない。
母親らしく、ばんざい、ようこそ!って喜んであげられない。
なんだかごめんね、お腹のひと。

そう思いながらも、彼女はだんだんと「母」になっていく。
悩んで、落ち込んで、怒って泣いて、考えて。
あがったり、さがったりしながら、だんだんと「母親」になっていく。

煙草を吸いたい、お酒だって飲みたい。
可愛い服だって着たい。
旦那と身軽に、好きなところに行きたい。

その気持ちは変わらなくても、
母親としての自覚が少しずつ、すこうしずつ育っていく。
赤ちゃんと一緒に、大きくなっていく姿が
くすぐったいような嬉しさを感じさせてくれた。

でも、この作品の何よりの魅力は
やっぱり旦那さんのさんちゃんにあると思う。
彼の穏やかな人柄と、大きな器は本当に素敵。

彼も別に、「完璧な父親像」ではないんです。
泣き虫で、気弱で、のんびり楽天家。
頼りがいがあるか、って言ったら全然ないし
マタニティハイみたいに、ベビー用品を買い漁っちゃうような人。

でも、本当は誰よりも強い。
柳のようにしなやかで、
不安定なマキちゃんが怒りや不安をぶつけても
受け止めて、時には流して、マキちゃんのそばにそっといる。

激しい喧嘩のシーンはないんだけど、
きっとそれはさんちゃんが「喧嘩にしないでいてくれた」から。
あぁ、いいなぁ。こんな旦那さん。
素直にそう思いました。


いつか、ほんの少しだけでいいから
三人になったこの家族のお話が読んでみたいな。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: *小説*
感想投稿日 : 2013年6月14日
読了日 : 2013年6月14日
本棚登録日 : 2013年6月6日

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