〇 概要
架空の島「凪島」を舞台として,「愛」や「勇気」など,形のないものまで盗む伝説の怪盗,怪盗フェレス。その解答をめぐる3つの短編からなる短編集。「誰が」でも「どうやって」でもなく,「何が盗まれたのか」を描く異色のミステリ
〇 総合評価 ★★★☆☆
架空の世界で,怪盗が何を盗んだかを推理するというオリジナリティのある作品。3つの短編からなり,怪盗フェレスの正体や,フェレスがなぜ記憶を失ったのか,など,明らかに謎を残して終わる。
3つの短編はいずれも,十分楽しめるデキ。軽いミステリで,寝る前に読んだり,通勤電車で読むには最適だろう。盗まれるものが「次元」だったり,「携帯電話についての認識」だったり,「顔」だったりするので,ミステリというよりSFとして読んだ方がよいかも。この作品に出てくる怪盗というのは,ジョジョの奇妙な冒険のスタンドのような位置付けだと思うといいかも。
雪子,千歳,獅子丸という幼馴染の3人が出てきて,それぞれ灯台守高校,御盾高校,黒印高校の生徒であるという設定だが,いまいち生かし切れていない。フェレスがなぜ記憶を失ったかなどの謎も残っており,作品全体ではまだ,序盤というイメージ。これからどう続いていくか(そもそも,続いていくのか?)によって,評価は変わりそう。この短編に限れば,それなりに楽しめる佳作なので★3だろう。
〇 サプライズ ★★☆☆☆
3つの短編のサプライズはそれほどでもない。「第1話 先生,記念に一枚いいですか」で,盗まれたものが「次元」だったり,「第2話 先生,待ち合わせはこちらです」で盗まれたのが「携帯電話についての認識」だったりするのは,意外な真相だが,驚かせようというような書き方がされていないので,そこまで驚けない。
〇 熱中度 ★★☆☆☆
どの短編も,読みやすい。何が盗まれているのかという点に焦点を当てており,オリジナリティもあるので,そこそこ熱中してよめる。しかし,飽くまでそこそこ。先が気になって読むのをやめられないというほどの作品ではない。さくっと読むタイプの軽い作品なので,熱中度はそれなり。
〇 インパクト ★★★★☆
何が盗まれたのかを推理する作品ということでインパクトはある。盗まれたものが「次元」だったり,「携帯電話についての認識」だったり,「顔」だったり。なんとなく,ジョジョの奇妙な冒険を思い出させる。インパクトは十分
〇 読後感 ★★★★☆
雪子が夜去にほのかな恋心を抱いている雰囲気で終わる。読後感はほっこりしていて,悪くない。
〇 キャラクター ★★★☆☆
雪子,千歳,夜去,間など,それなりにキャラクターは立っている。獅子丸はそれほどでもないが…。まぁ,飽くまでそれなり。漫画のキャラクターのような感じ。人間が書けているという訳ではない。
〇 希少価値 ★★☆☆☆
シリーズとして続いていけば,手に入りにくくはないと思うが…。講談社タイガというマイナーな文庫。将来的に手に入りにくくなる可能性はあるかも
〇 メモ
〇 部隊
凪島という架空の島が舞台。灯台守高校,御盾高校,黒印高校の3つの高校がある。
〇 灯台守高校
島の灯台の灯を守ることを信念としている高校
〇 御盾高校
通称「探偵高校」。卒業生の多くが警察や官僚になるエリート高校。私立探偵や諜報員になるものもいる。
〇 黒印高校
黒印を持つ子供に「盗む」技術を教えていると言われている高校
〇 登場人物
〇 神灯雪子
ヒロイン。灯台守高校の生徒
〇 夜去廻(よさりめぐる)
灯台守高校教師。過去,怪盗フェレスだったが,その頃の記憶がない。
〇 千歳圭
雪子の幼馴染。御盾高校の生徒
〇 小舟獅子丸
雪子の幼馴染。黒印高校の生徒
〇 第1話 先生,記念に1枚いいですか
雪子,千歳,獅子丸の3人
「未解決事件を解決する」という千歳の高校の宿題に取り掛かる。「クイーンズ」というアートギャラリー,廃工場,そしてアパートで,怪盗フェレスが何かを盗んだという。それらの場所では,ここ数年の間に変死体が発見されていた。果たして,フェレスは何を盗んだのか。
これらの犯行はフェレスの犯行ではなく,偽物の犯行だった。犯人は黒印高校「間木実」。彼女は,飛び降り自殺をした友人がいて,同じような悲劇が起きないように,高さのある建物から「次元」を盗んでいた。
〇 第2話 先生,待ち合わせはこちらです。
雪子は,自分が持つ灯台の灯の様子から,何かを盗まれ
ていると感じる。「ナスダ珈琲」という喫茶店で,千歳と相談をすると,ナスダ珈琲にフェレスが現れたという。今回の作品では,精神的対象が盗まれていた。犯人はナスダ珈琲のバリスタ「ニール」。ニールは,人々から携帯電話の記憶を盗んでいた。
〇 第3話 先生,なくしたものは何ですか
森の奥にある,フェレスの隠れ家という家に雪子と獅子丸が訪れる。その何日か前,ナサという喫茶店で,水戸仁美という記者から,この家で過去にあった殺人事件の話を聞いていた。水戸が言うには,かつて,フェレスの隠れ家で殺人事件が起き,顔を盗む怪盗が犯人で警察に捕まったという。
雪子と獅子丸が訪れたとき,謎の男がいたが,その男こそが顔を盗む怪盗だった。顔を盗む怪盗は,見事に水戸をだまし,逃げ延びて,フェレスの隠れ家を守っていた。雪子と獅子丸を殺害しようとしたところに,間木実と本物のフェレス=夜去廻が現れる。フェレスは館を盗んでしまう。この話で,夜去がフェレスの頃の記憶をなくしていることを知る。館を守っていた顔を盗む怪盗も,過去の記憶を失っていた。顔を盗む怪盗は,自分を含む,6人の男女が映っている写真を持っていた。そのうちの1人が夜去=フェレスだった。顔を盗む怪盗は,フェレス達を殺害しようとして,崖から落ちて死ぬ。
残る4人は何者か。記憶を盗む怪盗とは?謎を残しつつ,この作品は終わる。
- 感想投稿日 : 2017年6月18日
- 読了日 : 2017年6月18日
- 本棚登録日 : 2017年6月18日
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