1925年頃、高知市の下町。実際にそこに降りたって、登場人物たちといっしょに生活を送る、そんな強烈な実感を伴うような読書を体験できた。
・・・町のざわめきと生活臭があたりを包む。当時の風俗、道具立てが、読者の個人的な記憶に置き換わっていく。
・・・群衆の中からひとり喜和の姿が浮かび上がり、彼女の着物の、奥の乳房のぬくもりまでもが伝わってくる。その情欲、不安、諦念のうずの真っただ中に、喜和本人と同様に放り込まれ、ぐるぐると回り沈んでいく。
・・・そんな想像をふくらませていると、背後からのし歩いてきた男にぶつかりそうになり、すんでのところでかわせた。歩くたびに着物の裾から交互に突き出るその巨大なコブのようなふくらはぎに気圧される…。気を付けろ! アイツこそ最近幅を利かせてきた成り上がりの女衒、岩伍だ!
作者が自分の体の一部と引き換えに悪魔に書かせたのではないかと思われるような傑作。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
日本文学
- 感想投稿日 : 2018年12月20日
- 読了日 : 2016年5月8日
- 本棚登録日 : 2017年9月9日
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