菩提樹の蔭 他二篇 (岩波文庫 緑 51-3)

著者 :
  • 岩波書店 (1984年12月17日発売)
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感想 : 9
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中勘助は初めて読みました(「銀の匙」すら読んでない)。たまたま岩波文庫の復刻で出てたのであらすじを見たら彫刻に魂が宿って人間になる・・・という個人的に好きな系列の話のようだったので俄然興味が沸き。

そんなわけで、表題作はインド(かな?)を舞台に、ギリシャ神話のピグマリオンばりに、死んだ恋人そっくりに造られた彫刻にその魂が宿り人間として蘇るも、紆余曲折あって結局添い遂げられず、彼女は別の男と結婚、主人公は放浪・・・という童話というにはちょっと皮肉なお話。ファンタスティックな設定のわりに、女の子の父親が結構俗物でガッカリさせられたり、簡単にハッピーエンドとはならず二転三転するあたり、大人の読み物として普通に面白かったです。

この「菩提樹の陰」は、妙子という女性のために作者が書いたものだそうで、同時収録の「郊外 その二」「妙子への手紙」でそのへんの事情がわかる仕組み。妙子さんは作者の同級生の娘で、日記調で書かれた「郊外 その二」の時点で作者は33歳、妙子さんは9歳。作者いわく「無条件の愛」で、まるで実の娘のように彼女を可愛がっているわけですが、どうも「郊外 その二」だけを読むと、ほのぼのというよりは「ちょ、大丈夫?中さんロリコン?!」というくらい、微妙な描写が多々見受けられます(苦笑)。いやこれは読み手の心が汚れているだけであって、ご本人たちは何も疚しい気持ちはないのでしょうが。個人的にはところどころでちょっと引きました(汗)。

「妙子への手紙」は、タイトルどおり、作者が少女時代~結婚して子供を産んですっかり大人になった妙子さんに書き送った手紙。こちらを読む分には、本当に父と娘のようで微笑ましい。手紙といえども文章の端正な美しさは流石。ちなみに妙子さんは35歳の若さで亡くなったそうです。

以下余談ですが、一応ウィキで中勘助情報を仕入れてみたら、兄嫁に恋して彼女がなくなるまで(その時点で勘助57歳)結婚しなかったとか。で、その兄嫁というのが、長州藩の入江九一の弟・野村靖の娘だったそうで。てことは入江さんの姪!と妙なところに食いつく幕末おたく(笑)。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  >な行
感想投稿日 : 2013年8月15日
読了日 : 2013年8月14日
本棚登録日 : 2013年7月30日

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