九年前の祈り

著者 :
  • 講談社 (2014年12月16日発売)
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正式に籍を入れていなかったカナダ人の男に去られシングルマザーとして郷里の大分に帰ったさなえ。まだ幼い息子の希敏(けびん)はハーフゆえ天使のような外見ながら、母親であるさなえとすら意思の疎通が難しく、突然ミミズのようにのたくって泣き叫ぶ。温厚な元教師の父、迷信深いけれど現実的な母、閉鎖的なムラ社会。その中でだたでさえ難しい息子を育てる苦しみ。さなえが思い出すのは、9年前に町の企画で一緒にカナダ旅行に行った数人のおばちゃんたち、そのなかでも陽気で優しかった「みっちゃん姉」のこと。当時まだ若く未婚だったさなえには理解できていなかったが、みっちゃん姉はやはり障害を持つ息子の子育てのことで苦労していたのだった。

世代に関係なくいつの時代も子育ては大変だし、結局時代が変わっても同じことの繰り返しなのだということが、進歩がないという嘆きよりも逆に、これはもう仕方ないこと、私だけの不幸ではない、という妙な安心感につながっているような印象を受けた。個人的にはさなえの母親や、かつて一緒に旅行にいったおばちゃんたちの独特のパワフルさが、いきいきしていて良いと思った。さなえの母はとくに、自分の母親と重ねてしまった。娘を傷つけたいという悪気はまったくないのだろうけれど、母親という生き物のいや~な部分をたっぷり持ちつつ、それなりに娘や孫を愛していないわけではなくて、ときにその限りない現実主義に救われもする。けれどふとした言葉の端にやっぱり「娘の幸せが気に食わない」潜在意識下の同族嫌悪がにじみ出る感じ。

表題作以外の短編も同じ場所を舞台にしていて、登場人物も関連している。他作品もすべて読むことで世界観が深まるのは良かった。単品としてはラストの「悪の花」が一番好みだったかな。なんだろう、近所の誰の事も幾つになっても「○○兄」「○○姉」と呼び合うところとか含め、ちょっと中上健次の路地的な雰囲気があった気がする。

※収録
九年前の祈り/ウミガメの夜/お見舞い/悪の花

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  >え~お
感想投稿日 : 2018年3月8日
読了日 : 2018年3月7日
本棚登録日 : 2018年3月8日

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