増補新訂版 アンネの日記 (文春文庫) (文春文庫 フ 1-4)

  • 文藝春秋 (2003年4月10日発売)
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本棚登録 : 4057
感想 : 286
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小学生の頃にたぶん子供向けの簡単にしたのを読んだのだけれど、具体的なエピソードなどは覚えていなくて、ただただ、ユダヤ人というだけで隠れて暮らさなくてはならず、そのまま亡くなってしまった可哀想な女の子の話、という表面的な部分だけを記憶して、もう可哀想だから読みたくない、と思いこんだまま大人になりました。
小川洋子さんがアンネについて色々書かれているのは以前から知っていましたが、最近になって『洋子さんの本棚』で改めてこの本について色々語り合われているのを読んで、ようやく、ちゃんと読み直そう、と決心。年末帰省時に持ち帰り。

なんというか、改めて打ちひしがれるような気持ちです。単純に、戦争や人種差別、そのせいで2年間も一切外へ出ることもできず隠れて生活しなければいけない人々がいたという事実、しかしその状況だけでも過酷なはずのに、そんななかでものびのびと、14歳の少女が日記や物語を綴り、勉強をし、恋をし、一人の女性として成長していったこと、根っこの部分で何者も彼女を歪められなかったにも関わらず、その人生はあっけなく中断させられた、その残酷さに打ちひしがれました。

それにしてもアンネの、なんと賢く、なんと真っ直ぐで、なんと魅力的な女の子であることか!日記の中には、一緒に生活するアンネ自身の家族(父母と姉)、さらに同居するファン・ダーン一家(夫妻と息子ペーター)歯医者のデュッセルさんらとの人間関係、生活の様子などだけでなく、なぜ人間は戦争するのか、女性の地位はなぜ男性より低いのか等の考察もなされており、これがなかなか鋭い。アンネは作家かジャーナリストになりたいと願っていたようですが、自分の内面についての分析もしっかり客観的にしているし、一緒に暮らす人々に対しての人間観察眼もたいへん的確な彼女なら、きっとどちらにでもなれただろう。

「わたしの望みは、死んでからもなお生きつづけること!」と日記の中に書かれていた彼女の願いは、死後にこの日記の出版という形で皮肉にも叶うわけですが、もっともっと長く生き続けた彼女の作品をぜひとも読んでみたかった。

救いは、窮屈な生活の中でも彼女が「恋」を体験できたこと。はたして外の世界で普通に暮らしていたらペーターのような男の子をアンネが好きになったかどうかはわからないけれど、この生活の中では彼らはお互いに必要な存在だったのでしょう。恋し始めのドキドキ感、ときめきの描写は、読んでいてこちらも胸が躍りました。

反面、アンネはお父さん子でお母さんに対する評価が大変厳しく、また天敵のようなデュッセルさんやファン・ダーンのおばさん等、人間のイヤな面をさらけだしてくる人々もいる。お母さんとは、いつか大人になれば和解できたかもしれないのにと思うと切ない。逆に、危険を顧みず彼らをかくまってくれた会社のひとたちの親切には心洗われます。とくにアンネの日記をゲシュタポに見つかる前に保管してくれたミープにはただの読者である私からも感謝しかない。

戦争のせいで短い命を終えた少女の物語として、ベタだけれど今の自分は恵まれているのだからもっと前向きに生きようと思うような読み方も可能だけれど、それ以上に、一人の少女のいきいきとした成長過程として興味深かった。私が今もアンネと同じくらいの年の少女だったら、きっとかけがえのない友達のように感じたと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  ★ドイツ・中欧 他
感想投稿日 : 2018年1月6日
読了日 : 2017年12月31日
本棚登録日 : 2018年1月6日

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