熊本城を救った男 谷干城 (河出文庫 し 16-2)

著者 :
  • 河出書房新社 (2016年10月6日発売)
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本棚登録 : 9
感想 : 2
3

以前ふと本屋の店先で「五代友厚」の文庫が平積みにされてるのを見かけて、薩摩藩士でもややマイナーなこの人がなぜ平積みに?と不思議に思っていたら、なんと当時の朝ドラでイケメン俳優が演じて「五代さま」などともてはやされていたことを後で知ってびっくりしたものですが(朝ドラ見ないしなー)、今回なぜか新刊文庫平積みで見つけた「谷干城」。よもや朝ドラでイケメンが演じるようなキャラではないはずだし(失敬)「熊本城を救った男」と表題にあるところからして、まあ熊本復興応援しようね的なノリかと推測。やはり1981年に出版された本の、このタイミングでの文庫化でした。

がしかし、タイトルに熊本城と冠したわりに、西南戦争のエピソードはほとんどない。ふつうにさらっと流す程度でとくに活躍ぶりは描かれておらず拍子抜け。ちょっとしたタイトル詐欺だなあ。どちらかというと著者は軍人としての谷の能力を評価しておらず、熊本鎮台の籠城戦でも失策が多かったかのように書いているし・・・全然熊本城救ってないよ、むしろ天守炎上させてるよ(苦笑)

さて谷干城は幕末~明治の土佐藩士。同じく土佐藩の盟友である坂本竜馬と中岡慎太郎を暗殺したのが新選組だと事件当時は信じられていたため、近藤勇を捕えた際に強行に斬首を主張、実行したエピソードが有名で、ゆえに新選組側が主役の小説などでは、すごおく嫌なヤツとして描かれることが多い。が、実際そこまで狭量な人物だったのかというとそういうわけでもないと個人的に思うのは、その新選組の雇用主であるところの会津藩に対してはとても寛大に接しているところ。のみならず明治になってから元会津藩家老の山川浩を陸軍に勧誘して引き立ててくれた恩もあり。西南戦争時の熊本鎮台の籠城戦では、幕末に会津の籠城戦を経験した山川浩の隊が真っ先に救援に駆け付けたというエピソードがあるのだけど、本書はそのへん全スルーしてあって残念。

明治44年まで生きた人なので、どうしても割合として明治になってからの話のほうが多く、そうすると同じ土佐出身なのに不仲だった板垣退助との確執とか、伊藤、井上、山縣あたりの長州勢との不仲とか、そういうエピソード中心になってどうもつまらない。明治も後半になると政治家や軍人はいるけれど幕末のような英雄はいない。大物はみんな西南戦争までで死んでしまって後に残った小物が私腹をこやして日本をダメにしていくばかり。谷干城はそういった政治家連中の中では古武士的な潔癖さがあり私利私欲のために権力を欲したり私腹を肥やしたりしなかった点は評価できるけれど、独創性やカリスマ性に乏しく、坂本竜馬はもとより武市半平太あたりと比べてもひとまわりスケールが小さい印象。まあでもそんな谷干城をしっかり調べあげて1冊の本にまとめた著者の仕事は評価したい(えらそう)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ◆幕末(小説以外)
感想投稿日 : 2016年10月17日
読了日 : 2016年10月15日
本棚登録日 : 2016年10月10日

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