1992年ミラノ、作家になりそこねた冴えないライターの主人公コロンナ(50才男)は、シナイという男から新しい新聞ドマーニの創刊準備ゼロ号制作のデスクとしてスカウトされ雇われる。出資者のコンメンダトールには複雑な思惑があり、シナイからそれを打ち明けられているコロンナの本当の任務は創刊までの経緯を小説にすることだが、集められた6人の記者たちは何も知らない。記者の一人20代女性のマイアとコロンナは好意を抱きあい距離を縮めるが、一方でブラッガドーチョという記者はムッソリーニの死にまつわる陰謀説についての調査にはまり、それを聞かされたコロンナは・・・。
全体的な印象はコンパクトになった『フーコーの振り子』。すでに命の危機に晒されている主人公がその窮地に陥った経緯を回想する構成、出版界を舞台にして架空のニュースをでっちあげようとしている点など共通点が多かったけれど、最大の違いはページ数(笑)エーコといえば上下巻分冊の分厚い本しか読んだことがなかったので、たったの250頁で事件がちゃんと解決するのか正直ちょっと不安なくらいでした(苦笑)まあ回想の期間も2か月分だけで短いし、ある意味エーコ入門編としてはおすすめかもしれない。
ムッソリーニの死にまつわる様々な陰謀云々については、中世まで遡ってフリーメーソンだの宗教だのの大風呂敷広げられるよりは簡易でわかりやすいとは思うけれど、個人的には7割方わからず、ただ、内容について理解できなくても「なんかすっごい陰謀があってばれると大変らしい!」というようなことだけわかっていれば読み進めることはできるので問題はないかと思う。まあもちろんちゃんと理解できたほうがもっと面白いのだろうけど、イタリア近代史、意外と知らないことが多いんだよなあ。
テーマ的にはムッソリーニが重要なわけではなく、どちらかというとマスメディアの有り方への問題提起のほう。小説内の時代設定は1992年だから媒体としては新聞やテレビがメインだけど、現代に置き換えたらインターネット上で行われている情報操作や意図的な誘導はもっと悪質なわけで、なにもかも鵜呑みに信じちゃだめだなと改めて。でも目に見えない巨大な敵と戦うよりは、結局娘みたいな年齢の彼女ゲットできたんだからコロンナはある意味勝ち組、自分の人生を幸福に生きれさえすればそれでいいじゃんとも思う。
- 感想投稿日 : 2018年11月7日
- 読了日 : 2018年11月7日
- 本棚登録日 : 2018年11月6日
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