ナイジェリアの女性作家の短編集。アフリカ文学はアチェベの『崩れゆく絆』や、『やし酒飲み』のチュツオーラは読んだけれど、近代の女性作家(アディーチェは1977年生まれ)を読むのは初めて。作品の舞台はほぼ彼女自身の経歴である留学先のアメリカとはいえ、ナイジェリアの近代史を知っていたほうがわかりやすい話もいくつかあった(私は読後に調べたので知らなくても読めなくはない)。とはいえ人間の心の動きには世界共通の普遍的なものがあり、どれも容易に感情移入できたし、鋭い!と思う表現が沢山あってとても読み応えがありました。
すべての短編において、読んでいていいなと思った共通点は、人種差別やフェミニズム的なエピソードを扱っていても、被害者側の絶対の正義のようなものを振りかざさないところ。正しさはこれ、あれは間違い、という断定をしないところがとてもいいと思った。登場人物の内面を多方向から観察してあって、不満や怒りの裏側には自分自身の弱さや卑怯さが隠れていることがとても巧く表現されていると思う。
とくに好きだったのは、失恋したばかりの女性とわけあり男性の友情を描いた「震え」読後にやさしい気持ちになる。アフリカ各国の文学者が集まったワークショップでの人間模様「ジャンピング・モンキー・ヒル」はシニカルで面白い上に、多くの問題が提起されていて考えさせられる。裕福な家庭で甘やかされて育った問題児の兄を妹視点で描く「セル・ワン」も、複雑な心理の変遷があって、なんともいえない後味。「明日は遠すぎて」は祖母に溺愛されている兄を疎ましく思う妹の心理にサスペンス風味があり。「がんこな歴史家」は収録作の中ではいちばん土着的な印象を受けた。
※収録
セル・ワン/イミテーション/ひそかな経験/ゴースト/先週の月曜日に/ジャンピング・モンキー・ヒル/なにかが首のまわりに/アメリカ大使館/震え/結婚の世話人/明日は遠すぎて/がんこな歴史家
- 感想投稿日 : 2019年7月17日
- 読了日 : 2019年7月16日
- 本棚登録日 : 2019年7月10日
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