アメリカーナ 下 (河出文庫 ア 10-3)

  • 河出書房新社 (2019年12月6日発売)
4.06
  • (4)
  • (12)
  • (1)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 148
感想 : 12
4

下巻に入り第3部はオビンゼの回想。イフェメルがアメリカに行ったあと、後を追うつもりだったオビンゼにはなかなかヴィザが下りない。なんとかイギリスへの渡航が叶うが、他人の身分証明書を借りて派遣の仕事でつなぐ日々。ナイジェリアでは裕福できちんと教育も受けた彼に与えられる仕事はしかしここではトイレ掃除だ。やがて彼は大金を払って偽装結婚を計画、あと一歩というところで不法滞在がバレてナイジェリアへ強制送還されてしまう。

第4部でイフェメルは出来心の浮気が原因でカートと別れ、仕事も辞めてブログを始める。ブロガーとして成功したイフェメルは8年前偶然列車で知り合ったブレインと再会、彼と交際を始める。知的で高潔なブレインと、彼の周囲の意識高い系友人たちとの交流に、イフェメルは満足しながらもどこか完全に馴染めないものを感じている。やがてブレインとすれ違い始めるイフェメル。二人が心を一つにするのは、大統領選挙でバラク・オバマが勝つかどうかの話題だけだった。

第5部はイフェメルとの再会を心待ちにするオビンゼ、第6部はダイクが起こしたある事件により帰国を遅らせたイフェメル、第7部でようやくイフェメルは13年ぶりにナイジェリアに帰国し、すでに成功者であり既婚者となったオビンゼと再会する。

ここへきてようやくこの物語の背骨が、わりとシンプルにラブストーリーだったことに気づいた(遅い)。互いに運命の相手だったイフェメルとオビンゼが、一度は結ばれながらも壮大な遠回りをし、再びお互いへの想いを確認するまでのラブストーリーだ。

ただね、そうやって恋愛ものとして割り切って読むと、終盤結局二人の関係は「不倫」と呼ばれるものになってしまうわけで、イフェメルのほうは独身だからまあいろいろ男性遍歴重ねましたでいいけど、オビンゼのほうは何の落ち度もないのに捨てられる妻がやっぱり気の毒に思えてしまい、もろ手を挙げて二人の恋を応援する気持ちにはなれなかったというのが正直なところ。そして二人についても現状に不満があるから昔の恋が美しく思えているだけで、いざ二人が結婚したらまた「やっぱり違った」って思う可能性もあるんじゃない?と皮肉な目で見てしまったりもして。

なので、個人的には恋愛ものとして読むよりはやはり、イフェメルの成長物語としてとても面白かった。自分にとっては未知の国ナイジェリアと、知ってるつもりで知らなかった国アメリカ、その移民の歴史や文化、格差、差別など、ざっくり想像していたほど浅い話じゃなくてもっと複雑なのだなというのが知れてよかった。オバマの大統領当選が、彼らにとってそれほどまでに深い意義があったのか、とか。おおまかに「黒人」といっても出自は様々でそれによって彼らの中にも派閥や格差があることなども。

イフェメルの、歯に衣着せぬ物言いが小気味よく、彼女のことはとても好きになれた。ナイジェリアからアメリカへというスケールに比べたら小さいけれど、東京に上京した地方組としては多少共感できる部分もあったりして。何よりアディーチェの書く物語には読者をぐいぐい引っ張るパワーがあり、長編を読む苦痛をほぼ感じなかった(翻訳がいいのかしら)他の作品も早く文庫になると嬉しいな。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  ★アジア・インド・アフリカ
感想投稿日 : 2020年1月29日
読了日 : 2020年1月28日
本棚登録日 : 2020年1月15日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする