短編集。最初の「沈んでいく姉さんを送る歌」のインパクトが凄くて、最後まで読んでも結局最初のこれが一番心に残った。夫を殺した罪でタール池に沈められる刑に服す姉さんのイック、母親と弟たちは、彼女が完全に沈み切るまで美味しいものを食べさせたり歌を歌ったり、そして彼女が沈む間際まで花を飾ったりして見送ってあげる。とても残酷な刑罰のようでいて、奇妙な美しさがあり、一人きりで首を吊るくらいなら、こんな風に送り出されるのはもしかして幸せかもと思ってしまう。
象だちがお気に入りの象つかいピピットを探して旅に出る「愛しいピピット」はとても可愛らしくて好きだった。ヨウリンインという謎の化け物に食べられそこなった女の子が忌み嫌われながらも、再びヨウリンインが現れたときにお気に入りの男の子を守ろうとする「ヨウリンイン」は、彼女の報われなさ、ヨウリンインの気持ち悪さなど、これも不条理でインパクト大。
「俗世の働き手」には天使が出てくるのだけど、この天使がめっちゃ臭くて、腕がなくて羽の先に爪がついてて(コウモリみたいな感じ?)全然天使っぽくなくて怖かった。「大勢の家」は、吟遊詩人と呼ばれる人物が<三人の家>を使って宗教のようなものの中心人物となり一夫多妻で空き放題やってるのだけど…<三人の家>や<大勢の家>が実はある楽器のことだとわかったときはビックリ。
全体的にどれも、どこかにありそうだけど絶対にない、独自のルールが支配している小さなコミュニティの話で、不条理感がとても良かった。
※収録
沈んでいく姉さんを送る歌/わが旦那様/赤鼻の日/愛しいピピット/大勢の家/融通のきかない花嫁/俗世の働き手/無窮の光/ヨウリンイン/春の儀式
- 感想投稿日 : 2021年6月14日
- 読了日 : 2021年6月14日
- 本棚登録日 : 2021年6月11日
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