産霊山秘録 (ハルキ文庫 は 1-10)

著者 :
  • 角川春樹事務所 (1999年10月1日発売)
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感想 : 14
3

とつぜんの半村良。読みたい本を思いつかないときに、一応幻想文学好きとして、歴代の鏡花賞受賞作をとりあえず読んでみる、というのを時々実施しており。この『産霊山秘録』は1973年の泉鏡花文学賞第1回の受賞作。半村良を読むのは中学生の頃父親の本棚にあった「妖星伝」最初の数巻を盗み読みして以来。兄には貸したくせに私には「女は読むな」と言われたので頭に来てこっそり家族の留守に読んだのだけど、結構なエロ描写があり、父が中学生娘に貸したがらない理由を察して読まなかったふりをしたものでした(苦笑)

というわけで閑話休題。本作は歴史SF大河伝奇ロマン(盛りすぎ)大作。古代から神の末裔とされ天皇家と日本を影ながら守ってきた「ヒ」一族。物語冒頭(戦国時代)ではすでに一般人に混じってしまった者も多く、ヒ一族の自覚を持って活動しているのは少数の幹部のみ。活動内容としてはまあ「一種の超能力のある忍者」くらいの感じ。「産霊山」と呼ばれる彼らのパワースポットのような場所が全国各地にあり、そこに三種の神器(玉、鏡、剣=音叉)を設置することで、産霊間を自在にテレポートできるのが特徴。

上の巻ではなんと明智光秀を含む戦国武将の何人かがこのヒ一族であり、太平の世のために織田や豊臣、徳川を影で操ったりするのだけど、都市伝説あるいは単なるこじつけ、と一笑に付すにはあまりにも綿密で史実とちゃんと一致するのがすごい。もちろん明智光秀といえば当然、本能寺の変の真相は実は!というのもあり、このへんはなかなか面白い。「オシラサマ」の伝承もうまく絡めてある。

下の巻で時代は幕末に。山内がヒ一族な時点でもしやと思ったけど案の定、坂本龍馬も一族の一員。さらにヒ一族ゆえ、比叡、日ノ岡など地名に「ヒ」の字が入ってたらそこは一族がいるという伏線でこれはきっと…と予想してたらやっぱり、日野出身の新選組隊士たちもまんまとヒ一族。沖田総司が池田屋で血を吐いたのは超能力の使い過ぎゆえ。なるほど(笑)

しかしこのへんから、かなり駆け足で時代がすすみ、一気に第二次大戦後の昭和、東京大空襲や戦後の復興期、そしてアポロの月面着陸まで。戦国時代の序盤で主人公だと思ってたのにあっさりにテレポートに失敗し、昭和日本にタイムスリップした飛推というキャラがつまり終盤で再登場、その能力ゆえNASAに拉致され、そしてやはり戦国時代にテレポートに失敗して月まで飛ばされちゃった兄の死体を月面で見つけるという壮大にトンデモなオチ。

最終的に、伝奇ロマンぽくなくなっちゃったのはちょっと残念だったかな。もっと関ヶ原なり幕末なり、じっくりヒ一族の暗躍を描いてくれたら楽しかったのに。世界規模の話になっちゃって、日本国内だからこそのおどろおどろしい空気感がなくなってしまっていた。

あと内容とは関係ないですが他の方も書かれてたように、ハルキ文庫、ものすごく初歩的な誤植が多い・・・。カドカワなのに校閲ガールいなかったのかしら。

さらに余談ですが、冒頭でいきなり実家の地元のお寺が出てきて、地元界隈が舞台になっていたのはちょっと嬉しかったです。小栗栖の竹藪は、私が小学生の頃、ここで殺された明智光秀の幽霊が出るともっぱらの噂でした(笑)今はもう竹藪もなくなってるけど。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  >は行
感想投稿日 : 2017年3月29日
読了日 : 2017年3月28日
本棚登録日 : 2017年3月29日

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