ぼくのエリ 200歳の少女 [DVD]

監督 : トーマス・アルフレッドソン 
出演 : カーレ・ヘーデブラント  リーナ・レアンデション 
  • アミューズソフトエンタテインメント
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感想 : 354
5

LET THE RIGHT ONE IN
2008年 スウェーデン
監督:トーマス・アルフレッドソン
原作:ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト『モールス』
出演:カーレ・ヘーデブラント/リーナ・レアンデション

吸血鬼映画や小説が大好物で、そこそこの数のものを見たり読んだりしてきましたが、北欧が舞台というのはもしかして初めてかも。そしてこんなにも透明感溢れるリリカルな吸血鬼は、萩尾望都以来かもしれません。それはきっと主人公たちが12歳の少年少女であることとも切り離せない。単刀直入に感想を言うと、すごく良かった!!無駄に泣けたし(涙)。大好きな映画が増えました。

ざっくり説明すると、いじめられっ子の孤独な少年オスカーが恋した隣家の少女は実はヴァンパイアでした、という話なのですが、このオスカー少年が、びっくりするほど可愛らしい!ザ・北欧系な感じの淡い金髪に真っ白な肌、赤い唇、中性的な顔立ちで、最初にフライヤー見たときは、この子がヴァンパイアの少女かと思ったくらい(笑)。

一方ヴァンパイアの少女エリのほうは、どちらかというと東欧系の濃ゆい顔立ちに肌も浅黒く髪も黒でジプシーっぽい。失礼ながら、ヴァンパイアの少女と聞いてイメージする、メリーベル(ポーの一族)や、クラウディア(インタビューウィズヴァンパイア)のような、ゴシックなお人形系の美少女とはちょっと違う。でもそこが逆にリアリティがあるというか、物語が浮世離れしすぎなくて結果的に良かったのかなと、見終わった後は思うのですが。吸血鬼はもともと東欧が発祥の地だしね。

少女のほうがたまたま吸血鬼だったというだけで、基本的には12歳の少年少女がその孤独な魂ゆえに出逢って惹かれあう、美しい初恋の物語です。残虐な殺人のシーンもあるけれど、ホラーという感じはあまりしません。北欧のしんしんと降りしきる雪景色が、すべてをファンタジーにオブラートしてしまう。

残虐シーンよりむしろ怖いと思ったのは、少女の「パパ」の存在。エリは「パパ」と呼んでいるけれど、パパのほうは吸血鬼ではなく普通の人間で、40~50代。エリが200年以上生きていることを考えれば、彼が本物のパパであるわけはないのだけれど、そのことについて何の説明もありません。けれどラストシーン、エリと生きていくことをオスカーが選んだときに、ああもしかして、あのパパはオスカーの未来の姿だったのかも、と考えてゾッとしたんですよね。

この先、オスカーが人間のままエリと生きていったとしたら、当然彼だけが年をとる。30年、40年と過ぎ去ったときに、少女のままのエリと、中年のオスカーの関係は、やはり父と娘だと偽るしかない。オスカーはすでにエリのために殺人に協力してしまっているし、この先もそうやって生きていくしかない。もしかしてあの「パパ」もかつては、エリに恋した孤独な少年だったのかもしれず(そう考えれば彼の献身も納得できる)、そしていつかオスカーもまた年老いて、別の少年にエリを奪われるのかもしれません。

オスカーにとっての初恋は、エリにとってはそうではなかったのかも、そして彼女だけはずっと同じことを繰り返しながら生きていくのかも、と考えたときに、ただ純粋なラブストーリーであるだけでなく、一抹の皮肉を感じました。一筋縄ではいかない。

あ、あともうひとつ怖い(?)こと思い出した!1ケ所だけ、ボカシが入るシーンがあるんです。エリの着替えをオスカーが盗み見する場面で、エリの股間の部分に。ボカシ部分は当然見えないので、普通に考えてまあヘアがだめだったのねと思ってしまいますが、実はこれ、無修正の本国版で映っているのは、去勢されたペニスの跡、だそうです(汗)。つまりエリは、女の子じゃなく男の子だったという…。

確かに何度もセリフで、自分は女の子じゃないというようなことをエリは匂わせているんですが、事情を知らずに見る分には「吸血鬼だから普通の女の子じゃない」くらいの意味にもとれるので、まさかそんな裏事情があるとは思いも寄らず…。そうすると彼らの恋は、吸血鬼と人間という種族の差だけでも本来一筋縄ではいかない恋なのに、事態はさらに複雑だったわけです。

人間じゃなくても愛せるというのなら、同性だということは大したハードルにはならないだろうけれど、それ(エリの去勢)が何を意味しているのかは謎のまま。それにしてもこれ、そうするとタイトルが詐欺ですね。200才の少女、なんてサブタイトルはつけないほうが良かったんじゃないのか。少女じゃないんだし。

原題の「Let the Right One In」は、招かれたものだけが入れる、というような意味で、吸血鬼は人の家に「入っていいよ」って言われないと入れないという伝承を元にしているそうです。後半エリがオスカーの家を訪れたときに、オスカーが良いというまで入れないという描写が確かにありました。 映画だけだと明かされない謎の部分も多いので、原作読んだほうがいいかなあ。
(2011.06.13)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  北欧映画
感想投稿日 : 2014年11月6日
読了日 : 2011年6月13日
本棚登録日 : 2014年11月6日

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