メイド・イン京都

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2021年1月7日発売)
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本棚登録 : 499
感想 : 63
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大好きな京都が舞台のお話しということで手に取ってみた一冊。インテリア関係の仕事をやめ、交際中の和範と結婚するため彼の実家である京都へと向かうところから物語ははじまります。

彼の実家は京都で飲食店や物販店を運営する会社で、父親の急逝により事業を引き継ぐことになり、主人公の美咲はキャリアウーマンから一転、社長夫人という立場に。

一見、玉の輿で人生安泰にも見えるのですが、美咲自身はなんとなくの居心地の悪さを感じ始めます。それは仕事を辞めた喪失感や彼の実家で過ごす窮屈さ、姑との心理的な距離などさまざまあるのでしょうけれども、わけても象徴的なのは一章のタイトルにもある彼からもらうお小遣いだと思います。生活の糧は自分で稼ぐという立場から誰かに養ってもらう立場になってしまったことを実感させられるシーンだったのではないでしょうか。まるで籠の中の鳥、、、かな。

次第に和範との生活は歯車が狂い始め、彼の実家から二人暮らしができるマンションへと移ったものの、ついにはそのマンションも飛び出すことに。

そんな展開がつづくストーリーではあるのですが、ドロドロの愛憎劇という雰囲気はまったくなく、どこか爽やかな空気感さえまとっているように感じさせてくれる内容でサクサクと読み進めることができました。実際、夜寝る前に読み始めたものの、なかなか読むのをやめられなくなってしまいました。

多くのものを手放してしまった美咲の未来を明るく照らしてくれていたのは、自身が刺繍をほどこしたTシャツと10年振りに再会した大学の同級生・佳太の存在です。Tシャツのほうはトントン拍子に話しが進みちょっとうまく行きすぎかな、と思わなくもないですが、和範と結婚することになったがために失くしてしまった自己のアイデンティティとして機能していたといえるでしょう。そのわかりやすさが本作を楽しめるポイントなのかもしれません。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年2月15日
読了日 : 2021年2月12日
本棚登録日 : 2021年1月7日

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