空港は誰が動かしているのか

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  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (2016年5月1日発売)
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■空港の需要予測は他の交通需要予測でも広く使われている四段階推定法という手法で行われる。考え方は明瞭かつ論理的ですばらしいが,結果を大きく外し続けたのは明らか。
①人口増加やGDP(国内総生産)の成長などから,どこでどれくらい交通が発生するか
②それを各地域に分けると,どこからどこへどのくらい人が移動するか
③その移動を各交通機関でどのくらい分担するか,
④各交通機関のどのルートがどの程度使われるか
を推定し,最終的に個別の施設の利用者数などを予測する。
■元々の想定需要が高過ぎて地域の期待や営業目標が潜在的な実力に対して高過ぎる。
■ジェット機が飛び始めた昭和30年代から空港の騒音問題が深刻になった。空港は完全にNIMBY(Not In My Backyard=どこかにあって欲しいが我が家の裏にあるのは嫌)の迷惑施設と認識されてきた。
■公益法人は構造上の問題を抱えた見かけだけの民間企業。普通の企業に普通に働く仕組みとしての組織ガバナンスが欠如してしまう性質がある。
・株主が国
・国の担当部局の担当者が株主を代表して会社をモニタリングするが,国家公務員には投資家としての専門性もなければ,多数の目で会社の情報をチェックする一般株主のパワーもない
■関空会社は長い経営不振でペーパーダイエットとか電気をこまめに消そうといった細々としたコスト削減は激しく徹底されていた。それなのに何億円もの投資は採算性や必要性について大した議論もされずに通っていく。暴れる虎は放置してハエばかり追い回していては職員が疲弊するだけ。
・採算性を厳格に確認する文化が充分でないこと
・「公共的な要請」とか「空港設置者の責任で」といった言葉が乱用され正当化されること
■「公共性」とは何かとか「空港設置者の責任」とは何かの議論はされず,何となくの雰囲気で終わる傾向がある。
■お役所仕事のステレオタイプに「予算要求体質」(「とりあえず要求」「とにかく使い切る」)あり。
・要求しても査定で削られるし,要求しないで不足してもタイムリーに増額してくれることは期待できないので「必要かもしれないお金」はとりあえず要求しておく
・予算の増減は前年までの実績をベースに議論され要求の際は細かく議論する割には使った後はあまり厳密に議論されないので,もらった予算はとにかく使い切ろうという行動がイメージされる
■組織的なミッションやリーダーシップが不在だと経営計画やその目標も方向性を失ってくる。目標の妥当性について「個々の職員の努力が充分か」,「マクロ的にみて妥当な水準か」といった議論は全く深まらない。
■経営状況に関する会議について,いずれのテーマにも共通して,多数の参加者を集め,長時間をかけて議論して結局会議の結論がはっきりしないまま解散になる。すると後から「あの部分は修正を前提に了承が得られたのでは?」,「いや単に個人的な意見を言っただけで修正しなければ了承しないとは言っていない」といったような解釈論争が担当レベルで発生したりする。
■公共の常識は民間の非常識
■交渉を最も難しくしていたのは,公共と民間の組織文化的な違いにより検討・意思決定の仕組みがそれぞれ違うことを相互に理解していなかったこと。
■霞が関での仕事は最終的な判断権限はもちろん大臣にあり,その下に事務次官や局長,課長などのように重層的に縦の階層が構築されているが,仕事の論点整理をして方針を提案しているのは30代後半を中心としたいわゆる課長補佐クラス。外部からの指摘であれ内部的な議論であれ,検討すべき論点や課題が浮かべば,いったんは担当課に検討の指示がおり,課長補佐が中心になって論点を整理し,順次上司に了解を取って方針が決定される。関係者が多様な案件については方向性も含めて,課長補佐レベルで
案を整理し尽くす傾向が強まる。
■民間企業はトップダウンの様相が強い。民間企業の場合,現場ではなかなか決断できない。
■矛の民間,盾の公共
・業界内の全フィールドで勝つ必要もなく,やることとやらないことを自分たちで選ぶことができ,選んだフィールドで勝てればいいという意味で,持っている矛が鋭ければ鋭いほどいいということになり,トップダウンで決めやすい環境にある。
・行政は担当すべき分野が法定されており,やるべきだったことをなぜやらなかったのかという不作為を国会など外部から遡って追求されるリスクを抱えているため,必然的に周辺にあるすべての論点に備えができているのかという議論が不可避となっていることから,持っている矛が周囲を完璧に覆えるほど大きく硬ければいいとなる。
■日本の政策決定にある「暗黙のルール」
・合意形成とは全会一致のことだと日本人は基本的に思っているが,全会一致とどこかにルールが書いてある訳ではない
・考え方が了承されているというが,関係者記名押印の文書があるのかと言えばそれはないが有効
■改革が行われ給付が切り下げられようとするとマスメディアは生活に困窮する「被害者」を登場させて痛みを訴えるが,今は幼くて意見を言うことができない,または生まれてもいない将来世代の痛みが増大することには鈍感。
■国の改革の本質は民間にある。
■社会を取り巻く環境全てにビジネスの理解が不足し,以前として地域・住民の過度の公共への依存がある。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2016年7月17日
読了日 : 2016年7月16日
本棚登録日 : 2016年7月17日

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