たかが英語!

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  • 講談社 (2012年6月28日発売)
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テレビ報道を通して三木谷氏率いる楽天グループが、社内言語を英語にするというプロジェクトに取り組んでいることは知っていました。この本はそれを推進している彼がこの2年間での中間報告も含めて記しています。

この本を読むまでは、会社全体で社内言語を英語に変えるなんて社名を売り出す広告のような感覚で取り組んでいるのではという斜に構えた見方をしていましたが、彼の考え方を読んで、楽天の企業戦略を垣間見た気がしました。

楽天が今後縮小していく日本市場に本社を置きつつ、新たなサービスを展開して、海外で通用するようなサービスを提供していくために、英語を「特技」ではなく「ツール」として使いこなしていく重要性を、まずは楽天グループの人たちに、最終的には日本のビジネスパーソンに伝えたかったのでしょう。

奇しくも私勤務している外資系の日本支社では、昨年(2011)8月から支社長が米国人になったこともあり、自然に社内公用語は英語になっています。その1年前から一緒に働く同僚も本国から派遣されてきましたので、会議は勿論のこと、食事までも英語を使うようになりました。

そこで気づいたのは、彼らは仕事をしている限りは、私たちの使う完全でない英語(この本で紹介されている表現では「グロービッシュ」)でも十分に理解してくれることです。実際には彼らはネイティブの英語よりも、インドや中国、韓国等の「お国訛り」を聞いているからだと理解しました。

英語で書かれていることを翻訳して理解するのではなく、英語を英語で理解して、それで返答する感覚も次第に分かってきました。
2年前に楽天がこの取組を初めて、追随した会社、非難した会社、面白おかしく報道した会社等、様々ですが、少なくともこの2年間で楽天は大きく変わったことは事実のようです。

大変な思いをしている社員は多くいると思いますが、それでも、印象的に残ったのは、多くの人が英語を理解できるようになって、それまで、英語だけ話せて目立っていた人がそうではなくなり、仕事の中身で評価されるようになったという点です。

これが「たかが英語」と三木谷氏が言っている点なのでしょう。私も社内で英語でプレゼンするたびに、汗をびっしょりかきますが、終わった後の爽快感を感じられるのもそのお蔭かなと思います。今後も英語に精進していきたいと思いました。

また、英語によるコミュニケーションがビジネスをシンプルにする手段である(p36)というのは私もこの数年で実感しました。更に、グロービッシュを話すことは、英語による文化的な侵略から自分たちの言語や文化を守ることになる(p150)という考え方は私にとって「目からウロコ」でした。

後書きにありましたが、三木谷氏はこのプロジェクトを始めたと同時に、中国語を習い始めたそうです。私も最近学び始めた同志として共感しました。

以下は気になったポイントです。

・なぜ楽天は社内公用語を英語に変えるのか、その理由は、世界企業は英語を話すから(p5)

・2050年に中国は全体の29%のGDP、インドが16%、日本は3%を占めるに過ぎないと予想されている(p16)

・日本人口は2010年に1.28億人だったのが、2050年には25%減少して
9515万人、労働人口は、8128→4930万人となる(p17)

・言語をマスターする上で何より重要なのは、その言語になるべく長く触れ、使う時間を十分にとること(p24)

・一般的な社会人が英語を習得するために必要な時間は1000時間、楽天のインド人が日本語を習得するのに、毎日10時間、3か月かか
ったので(p27)

・日本語を許可したのは、日本の法定書類や国内顧客向けの用語、文書のみ(p31)

・楽天が社内公用語とするのは厳密に言えば、いわゆる「英語」ではない、グロービッシュ、比喩やユーモアを避け、シンプル英語で表現するプレインイングリッシュである、ここははっきりさせたいポイント(p33)

・英語によるコミュニケーションがビジネスをシンプルにする手段である(p36)

・みなが英語をしゃべれるようになると、それまで英語が得意で目立っていた人も、周囲に埋もれて目立たなくなってしまう、本当に必要なのはその人の専門知識であり、ノウハウであることが際立つようになる(p109,110)

・楽天市場の特徴は、1)ライブに近い形で消費者とコミュニケーションがとれる、2)ロングテール(多くの商品を並べられる)、3)ロングページ(詳細な説明)である(p146)

・グロービッシュを話すことは、英語による文化的な侵略から自分たちの言語や文化を守ることになる(p150)

・インターネット企業は、グーグル、アマゾン、イーベイ、アップルといった企業に集約されつつある、楽天はその中で戦っていかなければならない(p155)

・大事なのは自分の持っているボキャブラリーを使って表現しようとする努力である(p166)

・翻訳するのではなくコミュニケーションに力を入れる、英語を英語で理解する(p168)

・中国人に中国語で話ができるだけで、相手の反応はまったく違う、中国語で話し掛けた方が良い印象を与えられる(p187)

2012年9月17日作成

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ビジネス
感想投稿日 : 2012年9月17日
読了日 : 2012年9月17日
本棚登録日 : 2012年9月17日

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