見知らぬ乗客 (河出文庫)

  • 河出書房新社 (2017年10月5日発売)
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感想 : 21
4

『8つの完璧な殺人』を読むために読んだ。
ハイスミス自体は、映画の「リプリー」「太陽がいっぱい」「アメリカの友人」「妻を殺したかった男」「底知れぬ愛の闇」「キャロル」は見てきたが、小説はこれが初めて。

交換殺人というシチュエーションは面白かったが、ブルーノのほうに全然完全犯罪をする気がなく、隠す気はあるが、情緒不安定でとにかくイライラした。ガイのほうも、殺人について悩んで苦しんでいることにイライラした。心情表現にイライラさせられた。展開は進むけれど、ワクワクするような面白さは無かった。頑張って読んだ。
しかし、読み終わってみると、まあ面白かったかなっていう印象。喉元過ぎればなんとやら。

425Pのここが好き。
「しかしあの連中がこの身を破滅させたところで、おれがつくった建築が壊されることはない。そう思うと、いままた自分の魂が肉体のみならず精神からも分離したかのような、奇妙でうら寂しい気持ちがこみあげた。」
ガイの独白。自分が破滅しても、自分が作った建築物は壊れないことに寂しさを感じるのが面白い。一緒に壊れて欲しかったんだろうな。
他の考え方をすると、建築に魂を捧げてるなら、その魂も壊れないことに寂しさを感じている?傷つかない自分が寂しいものだと感じている?

ブルーノが海に落ちたシーンも好き。音が聞こえるや否や駆け出して、静止してくる相手もぶん殴って海に飛び込むガイ。
464P~466P

「「好きに行かせろ」ガイは低い声でいい、タバコに火をつけようとした。
ついで、水音がきこえてきて、そのとたんガイはブルーノが船外に落ちたことを察しとった。ガイはだれも言葉を発しないうちから、操舵席をあとにしていた。」

「おれの友人はどこに、おれの弟はどこにいる?」

特にこの弟というのが良い。
ブルーノは何度もガイに対して、あなたのことが好きなんだというが、ガイは答えなかった。けれども、ここでは友人で弟だと思っていることがわかる。
めちゃくちゃ良かったな。

オチに対しては、どうせたいしたことないだろうと思ったら、電話による盗聴でバレたのが面白かった。

ガイが殺人に対して罪悪感に苦しむのがわからない。良心がありすぎる。
罪と罰の主人公みたいだなと感じてたら、ドストエフスキーみたいだと評論家にも言われてたらしくて、なるほどな。



読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2023年12月8日
読了日 : 2023年12月7日
本棚登録日 : 2023年12月8日

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